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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜二章〜
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lovely #4

 母さんが味噌を買って家に戻ってきたのは、俺たちが食べ終わってからのことだった。


  何で遅くなったのかを聞くと、行ったその先のスーパーには味噌が売切りていて十分ほど先にあるスーパーまで行っていたとのことだった。


  俺達二人はお腹がいっぱいだったものの、折角買ってきてくれた、というか、元々味噌汁も晩ご飯の中に入ってたわけだし、味噌汁を食べ晩ご飯を終わりとした。


  母さんが食べ終わるまで、俺と薫は一旦、俺の部屋へと戻り取り留めもない会話を続けた。


  「そろそろ護の母さんも食べ終わるだろうし、後片付け、手伝ってくるね」

  「それなら、俺も手伝うよ。薫は作るのも手伝ってくれたんだろう?」

  「良いよ。護はここにいてくれれば」

  「そうか?」

  「そうだよ。じゃ、あたし手伝ってくるから」

  「へい。いってらっしゃい」

  「うん」


  薫はドアノブに手をかけ、部屋から出るかと思うと扉を開いてからこちらに振り返り。


  「終わったら、ここに戻ってくるから」

  「お、おぅ」


  何故、と思ったがそこは深く追求しないことにした。


  薫が部屋から出て行ったのを見計らったように、携帯に着信が入った。


  慌てて机の上に置いていた携帯を開き画面を見ると知らない番号からの電話だった。


  しかしその番号は数時間前に交換したばかりの成美の番号との似ていたところがあったため俺は電話を取った。


  「はい。もしもし」

  「あ、護君ですか? 私。渚です」


  思った通りの相手だった。


  「渚先輩ですか? 俺の番号、成美…………先輩から聞いたんですか?」

  「うん。そうだよ。さっき、お姉ちゃんが帰ってきたから聞いてみたの」

  「そうだったんですか」

  「うん。で、電話をした理由なんだけど……」

  「はい」

  「さっき、お姉ちゃんと会ってた?」


  こうも、成美もだが渚先輩もなにか勘が鋭いように感じる。


  別にここで嘘をつく必要が無いと思った俺は。


  「はい。そうですね」

  「やっぱりそうだったんですか。少しだけ気になって…………」


  ま、まぁ、渚先輩が気になる、と言うのも分からなくはない。


  「うん。聞きたかったのはそれなの。じゃ、また明日ね」

  「はい。それでは」


  まぁ、恐らく成美は渚先輩に告白云々の事は言ってないとは思うのだが、ん、二人にはあまり隠し事は出来ないのだろうなぁ。杏先輩にもだろうが……。


  「護。電話終わった?」


  薫の声が扉の向こうから聞こえる。


  「お、おぅ」


  薫がそう聞いてきたということは、声が廊下まで聞こえていたという事だろう。別に聞かれるとマズイというわけではないからいいのだけど。


  「杏先輩?」

  「ん? 違うよ。渚先輩」

  「渚先輩? 番号知ってたの?」

  「渚先輩は成美……先輩から聞いたって言ってた」


  あー、危ない危ない。呼び捨てにするところだった。気が抜けてしまう。


  「そうなの?」

  「うん」

  「それで、護のお母さんから、成美先輩達と昼寝したって聞いたんだけど……、それって、誰の案?」


  母さんよ。何を薫に教えてんだ。それに、急に話変わったな。


  「成美先輩の案だよ」

  「やっぱりね。そうだと思った」

  「それ以外は何かしたの?」

  「ううん。何もして無い」

  「本当に?」

  「う、うん……」

  「ふーん。薫達は何してたんだ?」

  「あたし達は、映画館とかゲームセンターに行ってたよ」

  「それはやっぱり杏先輩に連れて行かれた感じ?」

  「そうだね。ちょっと、疲れたりはしたけど…………」

  「そうだろうな」

  「んじゃ、あたしもう帰るね」


  薫は立ち上がり際にそう言った。


  「おうよ。また明日」

  「うん。また明日ね」



 ○


 「寝れねぇな……」


 ベッドに入ってから何時間経っただろうか。俺は寝れないでいた。


 それはいつもより遅めの時間に晩ご飯をたべたかもしれないし、成美から衝撃な事実を知らされたり、久し振りに俺の部屋で薫と二人で喋っていたり、いろいろな事があったからかもしれない。


 「まぁ、それにしても……」


 何回も思っているが成美先輩……じゃなかった成美のことは驚いた。いまさら、その事がどうにかなるというわけでも無いのだけれど。

 

 「ま、寝るか」


 そう思った時、枕元に置いていた携帯が鳴った。何故枕元に携帯を置いているかというとアラームをセットしてそれで起きるためだ。


 ほんのたまに、薫や心愛が起こしに来てくれる事があるけどそれは本当にたまにのことであり、それに頼ってはいけないのだ。


 薫からだった。


 「まだ、起きてる?」


 そのメールに俺もすぐ返事をした。


 「うん。起きてるよ」


 それからの返事も一分も待たない間に返って来た。この返信の早さにはいつも驚かされる。


 「じゃ、窓の外、見て」

 「窓の外?」


 そうメールを返しながら俺は窓のカーテンを開けた。そこには薫の家があり、薫の部屋の窓が目の前に見えるわけで、


 「まだ起きてて良かった…………」

 「どうした。こんな夜中に」

 「まぁ、ちょっとね…………」

 「ん?」

 「護の顔が見たくなってね……」


 この薫の言葉には俺の心を揺さぶるほどの破壊力があった。


 「べ、別に………………今じゃなくても明日の朝でも会えるだろう……」

 「そうだけど、なんとなく…………ね」


 薫の顔を見ると、何か他に言いたげなことがあるように思えて。


 「他にも、何かあるんじゃないのか?」


 俺がそう言うと薫は、


 「良く分かったね」

 「そりゃそうだ。何年幼馴染やってると思ってんだよ」

 「まぁ、そうだよね」

 「で、言いたいことって?」

 「それは、護の部屋で良い?」

 「俺の部屋? どうして?」

 「そんなこと気にしなくていいじゃない」


 うーん。薫にはいつも押されているような感じがするなぁ。


 「まぁ、分かったけど。どうすんだ? 玄関から入ってくるのか?」

 「ううん。もう、ここからでいいじゃん」


 まぁ、俺の部屋の窓と薫の部屋の窓ととの距離は本当に近いわけで、そこから移ろうと思えば移れる距離にあるわけだ。


 だけど、


 「近いけど、どうやってくるつもりだ。意外とそんな窓の大きさないぞ」

 「そこは護がどうにかして受け止めてくれるでしょ?」

 「受け止められなかったらどうすんだっ! 落ちたら死ぬことは無いが骨折くらいはするぞ」


 俺は少し語調を強めて言った。


 だが、薫は、


 「あたしは護を信じてるから、ちゃんと受け止めてくれると」

 「まぁ、はぁ………………。分かった」


 距離としてはたぶん一メートルほどだし、もしかすると受け止めなくてもいのかもしれない。


 「じゃ、行くからね」


 薫はそう言うと、こちらの窓枠の方へと足を伸ばした。俺は半歩後ろへと下がり、薫を支えやすくなるように体制をつくる。


 薫の足が窓枠をとらえる。現状としては、薫は自分の両足をそれぞれの部屋の窓枠にかけているといったところだ。


 こっちに両足を置くには、まず手を俺の部屋の窓枠の上部へと置かなくてはならない。それは恐らく片手で大丈夫だろうし、俺は。


 「手、貸すから。左手伸ばせ」


 こう言った。


 「ん。分かった」


 薫がゆっくりと伸ばしてくる手を俺はこちら側に引くように取る。


 「ふぅ。危ないやつだなぁ」


 薫の両足はもうすでにこちらの窓枠にある為、後はこちらの部屋に移るだけだ。


 と言ってもそれには俺が受け止めないといけないようで、


 「やっぱり、受け止めてもらっていい?」

 「うん。了解」


 俺がそう言うと薫は窓枠上部を掴んでいた手を離し、こちらの方へと抱きつくかのように飛んでくる。


 俺はそんな薫を俺自身が後ろに倒れないようにすると必然的にその手を腰の辺りに回すことになるので、この状況を第三者が見ているのならどう考えても抱き合っているようにしか見えないだろう。


 あまつさえ。


 「薫っ!?」


 薫もこちらの腰に手を回してきた。


 「しばらく、このままでいさせて」

 「薫…………」

 「お昼は、皆で昼寝したって言ったよね」

 「あ、あぁ………………」

 「それって、護はどうしたの?」

 「どうしたって?」

 「護も成美先輩とか渚先輩とか心愛とか咲と一緒に寝たんでしょ」

 「まぁ、そうだな……。それにしても、良く分かったな」

 「まぁね。あの四人が護だけを別の部屋で寝かせるわけないしね」

 「………………」


 こうして話をしている間にも、俺は自分の理性を抑えることに必死だった。


 偶然的? にも薫と抱き合っている状態になっているわけで、薫の鼓動や体温、その胸の膨らみなどがこっちに伝わってくるわけだから。


 「一緒に昼寝っていつくらいまでしてたかな」

 「小学校の時までだろうなぁ」

 「そうだろうね。中学に入ってからは咲も含めて三人でずっと一緒にいたもんね」

 「うん」


 しばらくは無言の状態が続いたが、その状態を破ったのは薫だった。


 薫は俺から離れつつ。

 

 「じゃ、あたし戻るね」

 「そ、そうか」

 「本当なら、一緒に寝たいところだけど…………」

 「…………っ!」

 「そんなことしたら、あたしも護も寝れなくなるからね」

 「そ、そう、だな…………」

 「じゃ、また明日」

 「お、おぅ」


 薫はひらひらと手を振りながら部屋の扉に手をかけ、廊下へと消えていった。


 「はぁ…………」


 何かドッと疲れた。まぁ、色んな意味で。


 時計を見ると針は午前二時を指していた。


 「寝るか…………」

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