お祭り気分 #11
「中、一緒に行こうか」
「はい、そうですね。護君ならそう言うと思ってました」
「お、おぅ……」
予想通りの反応が、護から返ってきた。
これで良い。葵は自分に言い聞かせる。悠樹と比較されて自分が上にこなかったのは嫌だというか、気が遠くなるというか、良い気分にはならないが、護はそういうタイプだ。
だから、これで良い。
「中で休憩することにしました」
二人で自分のクラスまで戻り、薫と心愛に言う。
「まぁ、二人がそれでいいなら」
「他のところ見てきたらいいのに」
当然の反応だ。外から見て自分達のクラスの出し物がどうか、喫茶店がどう映るのか判断することは必要だ。
葵も、出来るのであれば、次に生かせるように上級生の出し物などを見て回りたい。だが、優先順位は違う。護についていく。護の側にいる。今は、それが大事。
「まぁ、なんとなくだ、なんとなく」
護はそう答える。
(嘘)
薫と心愛の二人にその言葉がどう聞こえているのかは知らないが、護はあまり気にしてなさそうだ。
「ふーん、そう」
「注文、どうするの?」
「あー、そうだな…………」
結構、真剣に悩んでいる護。頼むつもりがなかったのか、本当に考えているのか。
「葵はどうする?」
「え、私ですか……?」
「おぅ」
「私は護君と一緒のものがいいです」
「それでいいのか……?」
「はい」
「葵が好きなものとか……」
「いえ、護君が選んだものならなんでも大丈夫です。私、嫌いなものとか、あまりないですし」
「まぁ、それはそうだが……………………」
(せめてもの………………)
「うーん、そうだなぁ…………。じゃ、ミックスジュースで」
「はーい。チケットどうぞー」
チケットを受け取り、葵は護の手を取る。少しの間だけ。ちょっとだけ、ほんのちょっと。
「葵……?」
「どうしましたか?」
「あ、いや……。構わん」
「はい」
〇
(ん…………)
店内に入って十分以上は経過した。注文したコーヒーもほとんど飲んでしまって、いつまでも居座っているわけにはいかないが、クラス内の様子を確認しながら悠樹は、普段通り読書に勤しむ。
ピークの時間は過ぎているので当然満席になることはないが、人の動きはまだまだある。
(ん…………?)
視線を本に戻そうとしたその時、手を繋いで入ってくる護と葵の姿が目に入った。思わずズラしたくなってしまったが、目線が合い、護がこちらに向かって空いてる手を振ってくる。
「待ってた」
「あはは…………」
「一緒に」
「はい」
護は悠樹の横に。葵は対面に。
(私のもの……)
盗られるわけにはいかない。悠樹と護、二人の関係性は強固なものになっている。盗られると思ってるわけではないが、可能性は勿論ある。有利な部分もあれば、不利な部分もある。
(仕方ない)
そういうものだ。
悠樹は勝者だ。だが、誰にも伝えていない。二人の中だけのこと。葵達からしてみれば、まだ勝負はついていないのだ。だから、仕掛けるのは当然のこと。
早く言ってしまいたい。そうすれば、楽になれるのだから。