お祭り気分 #10
悠樹がこちらの目をチラっと見、すぐ伏せる。ちょっと悲しそうに映る。
悠樹の言いたいことは分かる。一緒に、ということなんだと思う。俺も、せっかくの文化祭なんだから、機会を作らないといけないとは思ってる。初めての文化祭でもあるし。
(けどなぁ……)
タイミングが悪い。いやまぁ、皆に言っていない俺が悪いんだけども。言わないとと思うほど、言えなくなってしまっている状態。隠しているつもりはないけど、バレてしまったら、そういう風に見られてしまっても仕方ない。
振り返って教室を見、悠樹を見つける。心愛と薫に案内された悠樹は、小さく椅子に座っている。座るとすぐに鞄から本を取り出し、いつもの悠樹っていう感じもある。
「どうしました? 護君」
「へ……?」
「先輩が気になります?」
「あー、大丈夫大丈夫。珍しいなって思っただけだから」
「分かりました」
「すまん。もう少しで休憩だろうし、集中するわ」
「いえ、大丈夫ですよ。もう少なくなってきましたし」
「あ、護〜、葵」
裏に戻ったはずの心愛と薫が戻ってくる。
「どうした?」
「二人、休憩だって」
「ですか。そろそろ欲しいと思ってた頃合です。ね、護君」
「それはそうだけど、代わりは?」
「あたしらが見るよ」
「二人とも抜けて、そっちは大丈夫なのか?」
「うんうん。問題ないみたい」
「落ち着いてきてるしね」
「分かった分かった」
「しばらくゆっくりしましょう、護君」
「そうだな」
二時を回り、三時が近付いてきている。結構疲れるとなんというか、葵が言うようにゆっくりしたい気分。
「はーい、ゆっくりしてきて」
〇
「ふぅ」
息をつきながら葵は、大きく伸びする。隣で護も同じようなことをしている。時折席を外して身体をほぐしたりはしていたが、長時間座っているのも疲労が溜まる。
「おつかれさん」
「はい。ありがとうございます。護君も」
「後半も頑張ろ」
「ですね」
(さてと……)
ゆっくりと見てる時間はなさそうだ。
それに。
(護君は……)
護の意識は悠樹に向いてしまっている。
悠樹の何が気になるのか、どうして気になるのか、そこについて葵には知る術がない。知ったところでどうしようもないし、どうすることも出来ない。
「護君はどうするつもりですか?」
葵はわざと、こう聞く。
「うーん……。そうだな…………」
悩んでいる。悠樹のことを考えているのか、葵を一人にするのは申し訳ないと思っているのか。
(両方ですよね)
護はそういう人だ。分かりやすい反応だ。