お祭り気分 #9
悠樹は考える。護がいる、護のクラスの出し物。多少なりとも話を聞いていて楽しそうであるし、そこに自分も参加したいという気持ちはある。それにこうして、わざわざ誘ってもらっているわけだ。
薫は分かっているはず。それなのに声をかけている。自分達が開いている喫茶店に少し手応えを感じているのかもしれない。
「分かった…………、いく…………」
「ふぅ、良かった」
「二人の休憩終わってから……………………? 先に行っててもいい?」
「どちらでも」
「そこは、悠樹先輩の自由です」
「ん……………………。二人と一緒に行くことにする」
悠樹はやっぱり一人でいるのが好きだ。青春部に入ってからも、それはあまり変わらない。だけど、ここのメンバーと一緒にいる時には、これまで得られなかったワクワクとした感情。一人じゃなくてもいいのかもしれない、と思うようになってきた。
(護のおかげ)
護と出会ったからこそ、護と仲良くなれたからこそ、ちょっと変わることの出来た自分がいる。本当に、護のおかげだ。
「分かりました」
少しくらい、自分らしくないことをしてもいいだろう。
文化祭はそういうものだ。
○
「心愛、薫、おかえり…………あ」
「ん……………………。きてみた」
「あら、悠樹先輩」
「部室に行ってみたら先輩がいたから」
「…………誘われた」
「楽しんでいってくださいな」
「ん…………」
休憩が終わった二人が連れてきたのは悠樹。無理矢理といった感じの表情はしておらず、悠樹が自分の意思で俺達のクラスの出し物、この喫茶に来ることを選んだんだろう。
「メニュー表、どうぞ」
「ん、ありがと」
「ここで決めてもらう形なんです、あたしがそのまま裏に伝えますし」
「分かった」
じっとメニューを見る悠樹。
(ん……?)
思えば、悠樹の好きな食べ物とかあまり知らない。知る機会というか聞く機会というか、気にしたことがなかった。そんなにこだわりがなさそうな好き嫌いがないイメージ
まぁ、俺自身もそんな感じで。特別、これが嫌いっていうものはない。
「どれにしますか?」
「んー…………。コーヒー…………、だけでも、いい?」
「大丈夫です。後から追加もいけるので」
「ん」
「ミルクと砂糖はどうします? 悠樹先輩」
「ブラックで…………大丈夫」
(わーお)
「悠樹先輩、ブラック飲むんですか?」
横で心愛が驚いた表情で聞いている。心愛は苦いの苦手そうだ。辛いのものもあまり食べているところを見た記憶が無い。
「飲む」
「あたしはブラック飲めないです。っていうか、コーヒーが苦手…………」
「慣れたら大丈夫」
「びっくりしました……」
「ん」
「じゃあ、薫に席まで案内してもらってください。それでいい?」
「りょーかい」
「護、は……………………?」
「へ……? コーヒーですか?」
「違う。休憩……」
おっと、恥ずかしい。
「俺と葵はもう少し後ですね」
「ん…………。分かった」