lovely #3
俺は通常自転車で五分程の道を自転車を使わず、押しながら戻った。それでも普通に歩いた時よりもかなり時間がかかった。
それにしても、
「成美が、俺を…………」
成美が俺の事を好きだなんて事は全く気付かなかった。もしかしたら成美は、前から何かしらの事を俺にしていてくれていたのかもしれない。
だとすると。
「あの、昼寝の時のあれは…………」
昼寝の時、俺に必要以上にくっついていたのは俺に気づいて欲しいという念が込められていたのだろうか。もしそうなれば、俺はそれに気づかなかったということになる。
「ただいまー」
俺のその声に返事を返したのは母さんではなく、
「あ、護。おかえり」
「薫か? どうしたんだ?」
俺は自分の靴を薫の靴の横に並べる。
「護がどこに行ってたかが気になってね」
俺はリビングの方に足を運びながら。
「わざわざ来なくても、メールで済むことじゃないのか?」
「それはそうだけどさ…………」
薫はそう言いつつ、キッチンの方へ行き、食器を並べ始めた。
お皿とお箸を三つ並べたということは。
「薫、お前もここで食べるのか?」
「うん。護のお母さんも良いよって言ってくれたし」
「そうなのか……」
そして、その肝心な母さんの姿がリビングとキッチンには見えない。
「で、母さんは?」
「護が戻ってくる数分前に出て行ったよ。お味噌汁を作ろうとしてて、肝心の味噌が無かったから買いに行くって」
「なるほど…………」
「それで、先に食べといてって、護のお母さんが」
「そうか。なら食べようか」
「うん。その前に護。手、洗ってきて」
「了解」
○
俺が洗面所で手を洗いキッチンにに戻ってくると、きっちりと料理が並べられていた。
「サンキュー。薫」
「どういたしまして」
並べられている料理をみると、豚の生姜焼きと餃子が並んでいる。これに後味噌汁がプラスされるわけだ。
「いただきまーす」
俺と薫とで声を合わせた。
俺が餃子へと箸を伸ばすとそれを薫が制止した。
「護」
「ん? 」
「餃子って、ニンニク使ってるよね」
「あぁ。そうだな」
「それって、どうしてか知ってる?」
「うーん…………」
俺は記憶の海からそれについての知識を探そうとするがそんなものは見つからなかった。
「知らないな………………」
「じゃ、あたしが教えてあげるよっ!」
そう言い薫は高らかと話し始めた。
「餃子って始まりは中国なの。それは知ってるよね」
「おぅ」
「その時にはまだ、ニンニクは使われてなかったんだよ」
へぇ。それは知らなかった。
「で、餃子が日本に入って来た時は、日本が食料不足とかで豚肉のかわりに羊の肉、いわゆるマトンが使われていたんだよ」
「あぁ、だからその臭いを消すためにニンニクが使われたってことか?」
「そう。さすがは護だね。察しがいい」
「でも、今は羊肉は使ってないじゃん?」
「それは、風味とかが良かったからなんじゃないのかなぁ」
「なんだ。はっきりしないなぁ」
「そこまでは、知らなくて」
「そっか」
まぁ、別にそれ以上の理由を知ったところで、どうにかなるわけではないんだけど。
「じゃ、食べようか?」
「そうだな」