お祭り気分 #8
全く気にしてなかった。薫も同じようで、目を大きく開け、悠樹の方を見ている。一時間だけの休憩時間を無駄にしないよう、早く着替えよう。心愛はそれくらいしか考えていなかった。
「い、言われてみれば…………」
「あはは」
「見ておくから。早めに」
読んでいた本を閉じ、悠樹はスタスタと部室の外へ。
「もしもの時は……、合図、する」
「ありがとう……ございます」
(ふ、ふぅ…………)
一息つく。
ここは青春部の部室だ。ましてや、更衣室ではない。悠樹が言うように、護がいる。薫はすっかり忘れていたようであるが、心愛は違う。
自分のそれは薫と比べて立派ではないので、勿論恥ずかしいという思いはある。でも、それだけ。護なら、と考えてしまう。護は気にしないから。ただ、部員以外の出入りも当然あるので、ここは悠樹に従っておくのが無難である。
慌ただしく着替え終わった薫を見、心愛は悠樹を呼びに行く。中からノックし、声をかける。
「ありがとうございます。悠樹先輩」
「ん」
返事をした悠樹はそのまま自分の席につき、読書に戻ってしまう。
「悠樹先輩はここで何を?」
「読書」
「そうじゃなくて…………」
「ん、分かってる」
そんな悠樹の返答に、自分の横で薫がくすくすと笑っている。
(驚いた)
悠樹のキャラに似つかわしくないノリだ。
「今日は当番じゃないから」
「一日中?」
「うん」
即答。
「見て回ったり、しないんです?」
心愛は思わず聞いてしまう。一日フリーであれば、好きなことが出来る。ましてや、今は文化祭。心愛なら、この高鳴りを抑えることは出来ない。
「ん、別に…………。今はいい」
考えられないといった様子で、薫も悠樹を見ている。
「そう、ですか」
〇
不思議そうな顔で悠樹を見る、心愛と薫。せっかくの文化祭なのに、という心の思いが見て取れる。
(ん……………………)
勿論、悠樹にも二人の気持ちは分かる。普段の学校生活とは違う非日常的な空間で、のびのびと、自分らしく、楽しむことが出来る。年に一回というのが、更にそれを加速させる。文化祭がそういうものであるということは当然、理解出来る。
(でも)
それだけでしかない。自分は良い。元々悠樹は、一人でいるのが好きだ。心の許した人と一緒に過ごすのが好きだ。不特定多数の人とは苦手、むしろ、嫌いなレベル。
だから、悠樹はこうして、この部室にいる。
青春部の部室にいれば安心出来るし、ゆったりと、安心感を得られる。
「あたし達のクラスのところ、来ませんか? 悠樹先輩」
「え」
「喫茶店。ちょっとわちゃわちゃしてるかもですけど! そこでもゆっくり出来ると思います。ね、心愛」
「ま……、まぁ。そうね。薫の言う通り」




