お祭り気分 #6
〇
「まーくんには…………、似合わないよね。女装は」
「そうだねぇ。あたしも雪菜ちゃんと同じ思いだったけど、意外と人気もあってね」
「そ、そう………………」
護は可愛らしい男の子という感じでは全くなく、身長は一八〇近くある。かなり高め。小さければ絶対に似合っただろうし、それならそれで話は別だ。今の護の女装も見てみたい、そういう気持ちもあるが、それだけ。もし、雪菜が護と同じ学校で同じクラスだったら、薫と一緒に止めていたかもしれない。
「ま、実行委員で忙しいのもあってなくなったけど」
「まーくんは、そういうの…………よくやるよね」
「うんうん。好きだからね、護は」
「昔から…………、だもんね」
「うん。変わってないよ昔から」
「ん……、そうだね」
自分は一度も護と学校が一緒になったことはない。住んでる場所も少し離れてるからそれは仕方の無いこと。でも、魅散が沙耶と仲が良く護もよく遊びに来てくれたから、護が話しかけてくれたから、雪菜はこうして護のことを知ることが出来た。外で遊ぶことは少なかったが、それでも護は文句を言うことなく、雪菜にあわせてくれていた。
小さい頃はそうだった。だからこそ、薫とは違って不完全ながらも護の幼馴染という立場を得ることが出来ていた。薫にヤキモチを焼くことも、薫がいなければ自分が、と思ってしまうこともあった。
護が雪菜のことをどう思っているのかは分からない。自分だけがそう思っていてもいい。雪菜には護に直接聞く勇気はないし、自分のために自分の中だけに気持ちを留めていた。ずっと、ずっと。その方が楽だったから。自分以外の誰かを傷付けることがなかったから。
「だね」
「うん………………」
「薫ー? いつまで喋ってるの? 怒るよまったくー」
「はいはいー、今行く〜。ごめんなさい、また後で話そうね、雪菜ちゃん」
「えー、あたしはー? 薫」
「もちろん、魅散さんも」
「はーい。がんばってらっしゃい」
「ん……。また」
文化祭中であることを忘れ、少し話してしまった。これでも雪菜は頑張って話しているつもりだ。明るく元気に。でもそれは、相手が薫だから、魅散がいるから、護という共通点もあるから出来ることだ。それがあるから、雪菜は頑張れる。
(もう大丈夫……)
大丈夫。大丈夫。雪菜は自分に言い聞かせる。無理矢理にではなく、きちんと。自分のことを信じられるように。
気持ちの整理はもうついた。
「さ、飲みましょ」
「ん」