お祭り気分 #5
雪菜を気にしながら魅散は、教室内の様子を観察する。
(懐かしいわね)
一人暮らしはしていれど、大学時代もこの御崎市で、御崎大学で過ごしていた魅散にとってこの文化祭の感覚はつい一年前まで味わっていたものであるが、学生の身分でなくなった今、しみじみと思う。
「お姉ちゃんは……」
「ん〜?」
「去年まで、ここにいたんだもんね…………」
「だねぇ。文化祭は合同だったし」
学生の頃、楽しい、という感情を優先させていた魅散にとってこの文化祭は特に、この御崎市全体の華やかさを感じるものでもあった。
それは勿論、魅散が面倒なことが嫌いで、それを親友である沙耶に投げていたから、という面もある。
(よく文句を言われたっけ)
だとしても、二人の関係性は崩れることなく、良いところも悪いところも知っているからこそずっと仲良くやってきている。
「どうしたの? お姉ちゃん」
「急に、何〜?」
「笑ってたから」
「そう? 自分達の時のことを思い出してね」
(雪菜には………………)
「雪菜には、仲の良い友達、どれくらいいる……?」
妹にこんな質問をするのはおかしいと思いつつも、気が付けば聞いてしまっていた。
「どうだろ……。二人、かな………………?」
「それは、護君と栞?」
「うん……。まーくんと栞ちゃん…………」
「同じ学校とか、クラスには?」
「あんまり……」
「そっか」
雪菜は慣れるまでに時間がかかる。他人と接することがあまり得意ではない。だから、交友関係は自然と限定されてしまう。護は親友である沙耶の弟で、栞は近くに住む幼馴染。
だからこそ魅散は、護達が開いた七夕に雪菜が参加したことに驚いた。頑張るから、と雪菜はそう言い、良い笑顔で家に戻ってきたので安心はしていたが、なかなか上手くはいっていないようだ。
学校が違う二人は、なかなか会う機会があるわけではない。意識的に行動しないと、隣に居続けることは出来ない。当然それは雪菜も分かっているからこそ機会を利用しているわけだが、まだまだ一人では難しいようだ。
「ま、少しずつよね」
「ん……。がんばる」
(がんばんなさい)
「お待たせしました〜」
「はーい、ありがと。薫」
「ゆっくりしてくださいね」
薫が注文を届けてくれる。
「そういえば」
「薫が着てるそれって」
「あ、分かります? 咲夜さんが着てるのと同じタイプのやつです!」
「男装してるんだねぇ」
「はい。あべこべ喫茶っていうコンセプトなので」
「に、似合ってるよ……。薫ちゃん」
「そうかな? ありがと、雪菜ちゃん」
女装と男装。単純な喫茶店をやるよりかは、インパクトが強い。高校生であれば、ノリでやりやすい。
「護君はこっち側にはならなかったんだね」
「あはは、そうなんですよ。逃げられちゃいました」
「面白そうなのにねぇ」
「まーくんの女装……………………」
「ん〜? 雪菜は見たかった??」
「どうだろ……………………」