お祭り気分 #1
「ねぇ、お姉ちゃん…………?」
「なーに? 渚」
もう少しで数十分で文化祭が始まる。成美達、クラスのボルテージは最高潮に達し、観客を受け入れる準備は問題なく整っている。今日、予定のない成美と渚は廊下に出て、クラスメイトの盛り上がりを見守る。
「お姉ちゃんは…………、楽しめそう?」
「んー……? なんで?」
「だって……。今年も…………」
「残念なのは残念だよね、青春部で何も出来ないっていうのは」
「うん」
「でも、あたし大丈夫だよ。上手くいかない時だってあるからね」
「それはそうだけど…………」
「あたしが問題ないって思ってるんだから、問題ないんだよ。渚」
「お姉ちゃん……………………」
(あたしだって……)
諦めきれない部分はある。今年こそ、そう思っていた。護もいて、葵、薫、心愛がいる。去年よりも、賑やかな青春部になった。だからこそ、という気持ちが、成美にはあった。そして、護とも。
機会は大切にしなければならない。自分は、護と同級生ではない。先に卒業してしまうし、どんどんと会えなくなってしまう。それは、杏と佳奈も考えているはずだ。
(それなのに杏先輩は……)
佳奈も、杏の言動を尊重した。杏が一番苦しいだろう。杏は青春部の部長で、加えて、こういうイベントには必ずといっていいほど参加し、皆を先導していくタイプだ。そんな杏が、去年に続いて、部活としての参加を諦めている。
「杏先輩は何を考えてるのかなー」
「呼んだ? 成美」
「ふ、ふぇ…………?」
杏と佳奈が目の前に。全く気付いていなかった。渚は気付いていたのだろう、驚いているのは自分だけだ。
「私の名前が聞こえた気がしたんだけどなぁ」
「び、びっくりした……………………」
ゆっくりと、呼吸を整える。
「それで? 二人は何をしてたの?」
「特には……」
「そう?」
「私達は今日予定がないので、邪魔にならないようにこうして」
「そうか」
「三日間連続は疲れるもんね〜」
「回る時間もないですし」
「そだね」
(危ない危ない)
会話の内容が自分のことから逸れていった。事情が事情なだけに、杏のことを考えていた、とはなかなか言えない。
「ということは、成美と渚は今日、一日中時間があるんだな?」
「えぇ、まぁ。二人もですか?」
「ゆっくり回りたいところではあるんだがな……。会長だから、時間がな」
「私も今日は…………。お昼には帰らないといけなくて」
(帰る…………?)
「大変ですね」
杏の帰るという発言について渚は特に、言及しようとはしない。成美とは違って、あまり、気にしていないようにみえる。
(帰るって何………………?)
この疑問は心の中だけに留めておく。空気を読まないと。この場で聞くようなことではない。
「仕方ないよね。ね? 佳奈」
「そうだな。こういう立場にいるわけだ。重々承知の上だ」
「そうそう」