最後の #3
悠樹はゆっくりと、護の元へ向かう。
邪魔になる。そう思うが、悠樹は、自分の想いを優先させる。遠慮しがちだと、言われてきた。自分をそう評価していた時期もあった。だが、今は違う。護のことになると違う。
ついさっきまでの自分の思いを否定する。
邪魔になってもいい。
護と一緒にいられるのであれば、それでいい。
悠樹にとって護は、初めての年下の友達で、異性の友達で、親友で、そして、彼氏でもある。
高校に入ったばかりの時、青春部に入ったばかりの時、自分がこうも変わってしまうとは全く思わなかった。悠樹自身それは、時雨や氷雨と共に環境を変えるための手段でもあったわけだが、たったそれだけで、負に支配されていた自分の感情が解放されるとは思っていなかった。
「護……………………」
休憩を挟みながら、ゆっくりとゆっくりと足を進める。護の名前を呟きながら。
「あっ…………」
護の姿が見えた。葵と一緒に、机を教室外に運んでいる。にこやかに、護が笑っている。その護の笑顔は、自分に見せてくれる笑顔とそれほど大差ない。だからといって、護が悠樹のことを特別視していないわけではない。護は、誰にでもこうだ。人を選んだりしない。好き嫌いで対応を変えたりはしない。それが、悠樹とは違うところ。護自身がどう思っているかは分からないが、少なくとも悠樹から見てそう感じる。
だからこそ。
「あ、悠樹」
「ん」
こちらが声をかける前に、護は気付いてくれる。少しだけ、気分が良くなる。些細な事でもいい。悠樹は気分を落ち着けていく。
「おはよ」
「はい、おはようございます」
「悠樹先輩、どうかされましたか? 何か用事とか……?」
「ん……、特には」
全くない。ただ、護に会いに来ただけ。それだけのこと。
「そうですか」
「二人は、何を…………?」
「俺達、担当が受付なんで、その準備を」
「えぇ、護くんの言う通りです」
「そう…………」
机の上には、デカデカと「受付」と書かれた紙。これからやるであろう折り紙で作ったリボンなどが置かれている。
「二人だけ?」
「基本、俺と葵だけです」
「ん……」
「でも、それだとなかなか休憩とか回せないので他の人にも交代で入ってもらうことにもなりますが……」
紙を見ながら、葵がそう答える。うっすら透けて見えるそれはシフト表だろう。名前と時間、どのタイミングで休憩に入るのか。その間のカバーなど、みっちりと書かれている。ここまでする必要があるのか、悠樹は疑問に思うが、葵はそういう性格だ。委員長でもあるし、この文化祭のトップは生徒会長の佳奈だ。全体が規則的に動いている。
「やっぱりそうなる感じ?」
紙を覗き込むように。護と葵の距離が縮まる。
「えぇ。一人ずつ回ってもいいですが、お客様の数によっては対応が厳しくなる可能性もあるので」
「大変だなぁ」
「他人事みたいに言ってますけど、護くんにもちゃんと考えてもらわないといけないですからね」
「分かってる、分かってる」
「頼みますよ……」
喫茶をやると聞いているし、一クラス分の人数がいても、回らない部分もあるのだろう。全員が、意識して回せるとも限らない。やはり、護と葵、心愛や薫が中心になっているのだろうか。心愛はアルバイトをやっているし、護も問題なさそうだ。
「頑張って」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとう。悠樹」
「ん」