lovely #2
「成美先輩」
「ん?」
「成美先輩はどうなんですか? 青春部に入って良かったと思ってます?」
「思っているよ。なんだかんだ言って楽しいからね。それに護もいるし」
「俺、ですか?」
「うん」
俺は青春部においてそんなだいそれたことはしていないが。
「護だっているでしょ? 一緒にいるだけで楽しいとか、そう思える人が。あたしにとっては青春部がそうなんだよ」
なるほど、と俺は納得した。
「俺にとっての青春部もそうですね」
葵や心愛のおかげというのも何か変かもしれないが、青春部に入って先輩達とも仲良くなれたのが一番良かったことなんじゃないかなぁ、と俺は思う。羚には羨ましいと言われたりはするわけだが。
そんなことを考えていると、成美先輩がこちらに触れる距離まで近づいてきたので、俺は驚きの声をあげた。
「成美先輩!?」
「二人の時は呼び捨てで呼んでくれるんじゃなかったの?」
「成美…………先輩」
悠樹のことを呼び捨てにした時よりも、俺は恥ずかしさを覚えた。
「先輩はいらないでしょ?」
「成美…………」
「それでよろしい」
成美は満足気な表情を浮かべている。
「話変わるんだけどさ、護は葵達に返事したの?」
「返事」と言われ分らないほど俺も鈍くはない。
「してません。まだ、決められないんです。葵、薫、心愛の三人から選ぶというのは、三人とも好きですし。今の関係が壊れてしまうのが怖いだけかもしれません…………」
「じぁーさ、今、別の女の子から告白されたりしたらどうする? たとえばクラスの女の子からとか…………」
「俺に好意を持ってくれているのは嬉しいですけど、その時点で答えは出すことは出来ないです。それがもし仲の良い子なら、なおさらです」
「なるほどね」
「成美はどうなんです? 好きな人がいたとして、それとは違う人から告白されたら」
「それは断るよ。あたしは好きな人いるからね」
「そんなこと、俺に言って良かったんですか?」
「良いよ。だって………………」
「だっ」
だって、という言葉が俺の口から出ることは無かった。
俺の唇を成美が自身の唇で塞いできたからだ。
「ん……………………っ」
「な……………………、成美…………!?」
「あたしの好きな人は護だからっ!!」
「……………………っ!!」
俺は驚きのあまり立ち上がると成美も合わせて立ち上がり、もう一度俺の唇を塞いだ。
「んっ……………………ちゅ……」
「急に、ゴメン」
「い、いえ……」
「でも、もう、言わずにはいられなくて。葵達と部室に来た時から、葵達が護のことを好きだというのが分かっていたから、あたしはそんな気持ちにはならないって思ってた。たけど、護と一緒にいるだけで楽しいって思ってるあたしがいたの。鈍感なのがキズだけどね」
自分の感情に任せて成美はまくしたてるように言った。
俺はその成美の告白にどう応えるべきかと思っていると、
「別に、今は答えなくても良いよ。護が答えられないってのは分かってる。ただ、これからはあたしのことも考えて結果をだして欲しいって思って」
「すいません」
「謝らなくてもいいよ」
「でも……」
「あたしは、いつまでも待つから」
「ありがとうございます」
○
あたしは暗い夜の道を一人で走っていた。別に走っている意味は無いし、護が「駅まで送って行きますよ」と言ってくれたのを断らなくても良かったのかもしれない。
だが。
「恥ずかしすぎるよ…………」
あたしは思わず口に出してしまっていた。
葵も、薫も、心愛も、咲ちゃんも凄いと思う。告白した後でも普通に会話をしているのだから。
でもあたしは、
「気にしちゃうな…………」
最初の目的は鈍感な護に想いを伝えて、あたしも護の事が好きだからって言いたかっただけである。
護も告白されても普通に葵達と話しているところを見る限り、その告白を気にしていないんではなく、それを踏まえ相手の事を知ろうとしているのかもしれない。
「やっぱり、気にしてちゃダメだね」
あたしは一度立ち止まり、頬を軽く叩き気合を入れ直した。
「よしっ!」
あたしはさっきよりも明るく様に感じる道を駆けて行った。
○
「はぁ……。ちょっと疲れたかな…………」
あたしは自分の家に前に着いて、隣の護の家を見ながら呟いた。
杏先輩と一緒に居て楽しいしあたしもそれについては良いと思っているけど、
(あたし達を振り回すのは少し)
杏先輩自体はそういうことは考えずに行動しているだろうし、そこが杏先輩の良いところでもある。
いつもなら杏先輩のストッパーを佳奈先輩がしてくれているのだ。
「護も帰って来てるのか……」
護達のグループがどこで何をしていたのかは知らないが、無事、護はお金をあまり使わずにいられたのだろうか。そこのところの心配は渚先輩がいるから大丈夫だろう。成美先輩に言いくるめられることもないともいえないのだけれど。
でも、あたし達が遊んでいた映画館やゲームセンターにはいなかったし大丈夫だろう。
護の部屋を見上げると電気が付いていた。
「何をしていたのか、聞いてみてもいいかも」
ピーンポーン。
そのチャイムの音で出て来たのは護の母さんだった。
「あら、薫ちゃん。どうしたの?」
「護、いますか?」
「ゴメンね。今いないのよ」
「どこか、出かけたんですか?」
「そうみたいよ」
「どこに行ったとかは分からないですよね」
「うーん。分らないわね」
「そうですか。ありがとうございます」
「いえいえ。あ、そうだ。薫ちゃん」
「何ですか?」
「晩ご飯、食べていく?」
あたしはその好意は嬉しかったが首を振った。
「いえ、ありがたいですけど………………」
「遠慮しなくても良いのよ? 一緒に、護が戻ってくるのを待ちましょう」
護の母さんはあたしの服の袖を引っ張る。
「良いんですか…………?」
「良いのよ。その方が護も喜ぶと思うし」
「そ、そうですね」
あたしは、若干母さんの迫力に押されながらも一緒に護を待つことになったのだ。
「護は、何時頃家に帰ってきたんですか?」
「んー。お昼過ぎだったかなぁ」
「昼過ぎですか? 」
「うん。女の子を四人連れてきたからびっくりしちゃったんだけどね」
ということは、護のお金を使わないようにするためにここ、護の家で過ごしたということだろう。
「昼寝もしてたみたいで、ずっと静かだったけど…………」
「ひ、昼寝ですか…………!?」
「えぇ」
恐らく、というか絶対に、護の家に行こうとしたのも昼寝の案を出したのも成美先輩だろう。いや、もしかしたら咲という可能性もあるかもしれないけれど。
(護と昼寝なんて何年くらいしてないのかなぁ……)