最後の #2
〇
「あっ……………………」
悠樹は、いつも通り部室に向かっていた。今日は先約がいた。杏と佳奈。青春部の部長と副部長だ。そんな二人が、部室の前で何やら話している。
普段なら気にせず間に入っていく悠樹であったが、今日は何故か歩みを止めてしまう。無意識に。これ以上、先には行くな、と。
(む……)
柱に隠れるようにしてチラチラ、悠樹は二人を伺う。ここからでは何を話しているのかは聞こえないが、表情からある程度察することは出来る。杏と佳奈が何故、今ここにいるのか。
悠樹にはまだ一年間の時間がある。短いのか長いのかそれは人それぞれであるが。二人にはもう、そんな時間はない。
だからなんだろう。
「あわ…………っ」
話が終わったのか、部室に入らずそのままこっちに向かってくる二人。悠樹は慌てて階段を駆け下り、外に。バレることがないよう、人混みに紛れる。
(なんで…………かな)
思わず逃げてしまった。悠樹は自分に問掛ける。逃げる必要は全くなかった。それなのに悠樹は、二人を避けた。自分が居ていいような場所ではなかった。いつもならこの感情は湧いてこないが、邪魔をしてはいけないと思ってしまった。
二人と自分は違う。
「護、護」
(護のとこ、いこ…………)
これもいつも通り。変わらない日常。護に会いに行く。
誰のために?
もちろん、自分のために。護の元に向かう。
「あ、でも……………………」
一瞬忘れそうになったが、今日から文化祭だ。いつもと違う。のんびりと、ゆっくりと出来るわけではない。雰囲気がそれを許さないだろう。それに、護の邪魔をするわけにはいかない。護は邪魔だとは思わないだろうが、自分はそう思う。護は実行委員でもあってクラス委員長でもある。単純に、楽しめない面もある。
三日間あるが、二人で回る時間はほとんどないだろう。護は引く手数多。否定もしないので、自分達は調子に乗ってしまう。悠樹は護の彼女であるが、だからといって護を独占出来るわけではない。優先されるわけでもない。だって、そのことを青春部のメンバーは知らない。誰も知らないのだ。
「いつ……?」
ふと、思う。自分達はこの関係をいつ、皆に伝えるのだろう。そして、どんな反応が返ってくるのだろう。
祝福? 批判?
どちらにせよ、気にしない。それで護との関係が崩れるわけではないから。自分達のことは自分達で。
「ふぅ……………………」
少し休憩。廊下の端、邪魔にならないように壁にもたれかかる。人混みは嫌いだ。疲れる。護と居れるのであれば、それはそれでいいのだが。