最後の #1
「ふぅ…………」
杏は、青春部の部長である杏は、登校してすぐに自分達の部室に向かう。ゆっくりと、ゆっくりと。
「もうすぐお別れだもんねー」
(なんて、ね?)
自問自答。
杏は思う。自分がもう三年生であること、卒業が迫ってきてしまていることを。もう十月。今日から十月だ。あと五ヶ月。杏が御崎高校にいることが出来て、青春部の一員でいられる期間は、あとたったの五ヶ月しかない。
「悲しいなぁ」
この文化祭の間、青春部として集まることはほとんどないだろう。部として何も行わないのだから、当然といえば当然であり、皆が忙しいので仕方がない。杏としては困るが、出来ないのだから、もう諦めるしかない。今更考えても間に合わない。
「静かになるんだろうね、あの部屋が」
皆が自主的に部室に足を運ぶなら別だが。普段からは考えられない、似つかわしくない状態になってしまうだろう。
「杏…………? 何してるんだ?」
「あれ? 佳奈? そっちこそどうしたの」
階段を登ろうとしたところ、上方から声がかかる。
「いや、部室に行こうと思ってたんだがな。鍵を忘れて」
「あはは。鍵はあたしが持ってきたよ」
「そうか」
二人で足並みを揃え、部室へ。シン、と静かな。暗い部屋。
「珍しいね。佳奈が忘れるっていうのは」
「私が鍵を開けること、それほどなかったもの」
「言われてみればそうね」
佳奈の言う通り。基本的には、部室にはいつも誰かがいた。もちろん、それは杏の場合もある。佳奈は生徒会の仕事もあるので、部室一番乗りということはあまりなかった。
「で、佳奈はなんで部室に」
「特に……、理由はないな。なんとなく。杏こそ、どうして?」
「うーん、あたしも佳奈と一緒。なんとなく。もう最後なんだなぁ、ってね」
「最後か…………。そうか、最後だな」
「うん、そだよー」
〇
(同じ、だな)
佳奈と杏の感情は同じだ。口に出さなくても、その言葉だけで、その雰囲気だけで、今、こうしてこの場にいることそれだけで、分かり合える。
胸の中に穴が空いたような、ポッカリと、何も言えない気持ちになる。
「どうする?」
「んー……?」
「中、入るか?」
「んー………………。どうしよっかな」
佳奈はわざと、杏に聞いてみた。もうここは、自分達だけの部屋ではない。青春部皆の部屋である。
「ううん。今日はやめておく」
「そうか」
「一緒に戻ろっか、佳奈」
「あぁ、そうだな。たまには、な」