ぶんかさいっ!! #8
蜜柑のその問いかけに心愛は、思わず抜けた声で返事をしてしまう。意識していなかった、考えてもみなかったところからの質問だったから。
自分が楽しそうだった、と。蜜柑はそう言った。
(楽しそう)
聞き間違いでもなんでもない。蜜柑は間違いなく、楽しそう、その言葉を自分に言った。
(うんうん)
楽しそう、ではなく、楽しいわけで。蜜柑が言ったことは正しい。間違っているなんてことはない。
その通り。楽しくなかったら、護の隣にいようとは思わない。楽しくなかったら、護を好きになんてならない。護だけじゃなく、薫と葵、青春部の皆も。一緒に居てそこに楽しみがなかったら、好きになるわけがない。楽しめるという前提のものがあるからこそ、心愛はそこに自分の居場所があると感じることが出来る。居場所があっても問題ないと、そう思えるのだ。
「違う、の……………………?」
恐る恐る。こちらの顔色を伺うように、蜜柑は尋ねてくる。
「ううん。大丈夫」
「だよね。そうだよね。だって、成宮さんは…………」
「ん?」
「いや……、なにも、ない。うん……。大丈夫」
蜜柑は意図的に言葉を止める。
(まぁ)
言いたいことは分かる。蜜柑にその事を伝えたことはないが、知っていても不思議ではない。おおっぴらに言いふらしたこともないし、そういうこともしないが、雰囲気で分かってしまう部分もあるだろう。
こういう感情を知ったのも、知らされたのも、高校に入ってからだ。中学までの自分とは違う。
(いや…………)
自分が変わったわけでは決してない。周りを無理矢理変えたから、自分がそのままでいられる。自分を飾る必要がなくなった。自分は自分だと、意識することが出来る。
(護のおかげだね、本当に)
護がいたからこそ、自分を保てているのかもしれない。護がいたからこそ、自分をさらけ出してもいいと、そう思えた。薫という壁があっても、巨大なものがあったとしても、自分から前に進むことが出来た。
護がいなかったら、心愛は昔の心愛のままだったかもしれない。それはそれで構わないと、昔は思っていたわけだが。
(今はもう、戻れないよね)
今は、無理だ。この温かさを知ってしまっている。感じてしまっている。その中に身を置いてしまっている。もう無理だ。昔の自分には戻れないし、戻りたくない。戻る必要性もない。
(はぁ)
「大丈夫? 準備の方は」
「うん。こっちは大丈夫だよ。いつでも」
護からの呼びかけ。
いよいよ、だ。
前を向こう。これからを楽しもう。振り返っている暇はない。