lovely #1
成美先輩がどこからメールをしてきたのかは分らないが、家を早めに出て公園に向かった方がいいだろう。成美先輩を一人で待たせるのも悪いし。
「母さん。ちょっと外出てくる」
俺は、楽しそうに鼻歌を歌いつつ晩御飯を作っているその後ろ姿に声をかけた。
母さんはその姿勢のまま。
「分かった。なるべく早く帰ってくるのよ」
「うん。了解」
俺は歩いて向かうか自転車で向かうか数秒間考え、結局、自転車で行くことにした。自転車で向かえば五分くらいで行ける。
その指定された公園へと辿り着くともうすでに成美先輩がいた。
「成美先輩」
「おっ、護か。意外と早い到着だねぇ」
「先輩のほうこそ、早すぎますよ。先輩を待たせない為に自転車で来たのに…………」
「ありがとね。実はもうここでメールしてたんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「うん」
「そういえば、先輩。髪、どうしたんですか?」
「ん? 髪?」
成美先輩はそう言いつつ自分の髪に触れ、髪型がいつもと違うことに気付いたようで、
「あ、結ぶの忘れてきたのかぁ」
ハーフツインではない髪型の先輩を見るのはこれが始めてだ。どちらかというと、俺は今の様におろしている方が何か良いような気がする。
「護」
「何ですか?」
「今、あたしの髪型はこの方が良いって思ったでしょ?」
「なっ、ま、まぁそうですけど……」
どうしてこうも、成美先輩は心を読んでくるのか不思議に思う時がある。顔にでもでてるのだろうか。
「これからは、髪、下ろそうかな…………」
ハーフツインでの髪を結んでいた髪がおりるわけだから、それだけでもかなり印象が変わるものだ。
「そういえば、髪おろしてたのによくあたしって分かったね」
「あ、そうですね。なんででしょうね」
「ま、そんなこと気にしても仕方ないしね。あそこのベンチに座ろうか」
成美先輩は、今の俺達の位置から数メートル先にあるベンチを指して言う。
「そうですね」
成美先輩が先に座ったのを見てから、俺はそのベンチの横に自転車を止め、成美先輩の隣に座った。
「護はさ、青春部に入って良かった?」
「き、急に何ですか?」
「ちょっと気になってね。護がどう思っているか」
「そうですね。良かったですよ。とても楽しいですし、青春部の部室、それとメンバーに会えるのを楽しみにしている自分がいますし」
「へぇ。なるほどね。葵の家で勉強した時は楽しかったよね」
「そうですね。勉強というか一泊したというのも」
「そうだね。ポッキーゲームをしたのも葵の家だったね」
「そ、そうですね……」
俺はその時の状況を思い出してしまい、自分で顔が赤くなるのが分かった。
成美先輩は俺の顔が赤くなったのを見るやいなや。
「あ、護。今、思い出してたでしょ」
「ま、まぁ」
「まぁ、仕方ないよね。あたしもしばらくは杏先輩達が待ってた部屋には戻れなかったし」
「そうなんですか?」
「そうだよ。だってポッキーゲームなんて初めてしたわけだし」
「ポッキーゲームなんて普通はしませんからね」
「そうだよね」