揺らぐ気持ち #5
(まぁ、心愛の気持ちは分かるけどね……)
ため息混じりに、心の中だけで言う。
どうしようもない、と薫は言った。が、薫だって何度も考えたことはある。何回も、何回も。
護は隣にいる。何年も自分の隣に。だからそう、護がいなかったら? なんてことを考えても、あまり意味がない。時間の無駄とも思える。だけれども、そう思ってしまう。
護は。
(大切な存在だから)
ハッキリといえる。護はなくてはならないものだ。護が隣にいない人生だなんて、今の薫には考えられない。
(ううん)
今だけではない。これから先もずっと。
だからこそ、もしも護がいなかったら、と考えてしまう。堂々巡り。
「この話はここまでにしましょ。ね? 心愛」
「そうね。文化祭まで頑張ろ」
〇
(さてさて……)
俺はしばらく寝たふりを続けることとする。いや、実際寝ていたのだが、薫が心愛を呼ぶ声で起きてしまった。二人がああいう話をしていたので、起きるタイミングを失ってしまった。
俺や他のメンバーがいなかったら。自分に置き換えてみれば、薫や心愛、葵、そして、悠樹がいなかったら、ということか。
薫がいなければ俺は、生まれてこの方ずっと一緒にいるお隣さんが、幼馴染がいないことになる。うんうん、恐ろしい。幼稚園も、小学校も、中学校も、そして今、高校も、こうしてずっと一緒にいるわけだ。そして、この先も。こういうことは考えたくもない。考えただけで、恐ろしくなる。家族ぐるみの付き合いもあるわけで、大切なものが欠けてしまう。
それに、薫がいなければ、葵や心愛とも繋がっていなかったことは容易に考えられるし、そうなれば、青春部にも入っていないわけで。悠樹達にも出会えていない。悠樹に会えていなかったらと思うと、それも当然恐ろしいわけで、信じられない。そこは薫と同じだ。
まぁ、薫とは長い付き合いなわけであるが、悠樹達とも、このたった数ヶ月で、必要とし必要とされるものとなったということ。色々あるにせよ、青春部のメンバーは全員必要だ。そこは間違いない。
「護君、起きていますか?」
足音が一つ、自分の前に止まる。葵だ。起きないといけないな。いつまでも寝たふりをしてるわけにはいかない。やることもあるし。
「あぁ、大丈夫だ」
「これから会議ですよ、護君」
「うん? 今日だっけ?」
「こらこら、護君」
ポンポンと、優しい力で葵が俺の頭を叩いてくる。あれ、そんなキャラだっけ。
「すまん、すまん。忘れてた」
「私達はこのクラスの代表なんですからね」
代表というか、委員長だから、文化祭の実行委員会に自然と組み込まれている。こういうイベントの時はやることが多いようで。これで青春部まであったらてんてこ舞いだ。その点は、無くてよかったな、と俺は思う。寂しいし、残念ではあるけれど。
「それじゃぁ、行きますよ。護君」
「了解」