揺らぐ気持ち #3
「ごめんねー。悠樹」
「ん…………。どうしたの?」
突然、杏から謝罪の言葉が飛んでくる。珍しい。それに、何か謝られるようなことをされた覚えもない。
「青春部では何も出来ないからね、ちょっと」
「構わない」
「そ。悠樹はあまり、そういうの好きじゃないもんね」
「ん。問題はない」
「ありがとね。いつも」
「ううん。こっちこそ」
青春部があるから、護と出会うことが出来た。関係性を築くことが出来た。皆ともそうだ。出会い自体はあっかもしれない。だが、こうして仲良く出来ているのは、間違いなく青春部のおかげである。
杏がいなかったらどうなっていただろうか。佳奈がいなかったら。
そして、護が……。
〇
「本当はやりたかったんだけどね……………………」
杏は、ため息混じりにそう洩らす。
「ん」
悠樹から返ってくるのは、いつも通りの頷き。
(本心はそう、ね)
やりたいか、やりたくないか。二択なら、前者に決まっている。そうじゃない。予定はしていた。青春部で文化祭に参加しようと。
(まぁ、仕方ないよねぇ……)
タイミングが合わなかった。ただそれだけ。護と葵は委員長。佳奈は生徒会長であるし、全体を取り仕切る必要がある。準備期間ですら、全員のメンバーが集まることは無かった。なら尚更、その文化祭期間で集まるわけがない。
「また、遊ぼう? 文化祭の後でも」
「そうだね。ありがと、悠樹」
「…………ん」
悠樹なりに褒めてくれているのか。
珍しく、笑顔も見える。
(まぁ、護が来てからは珍しくもないけれど)
悠樹は、入学した時からいたわけではない。途中で入ってきたのを杏は覚えている。無口、という悠樹の印象はそこから変わったわけではないが、表情豊かになった。
悠樹に関しては、護のおかげだ。ここまで全員に対して話してくれるとは思っていなかったし、笑顔を見せてくれるとも。人に頼るだけでなく、引っ張っていくのが部長としての、杏の仕事ではあるが。例え杏であっても、自分の中での範囲がある。壁があれば、なかなか行き辛い時だってある。
「時間、大丈夫?」
「あ、うん。ありがと。そろそろ帰ろうかな」
「分かった。気を付けて」
「うん。悠樹も、早く帰りなよ〜」
「ん……。そのうち」
「じゃあ、またね」
「ん」