買い物
(皆がいなくなると以外と広く感じるものだなぁ)
毎日のように自分の部屋として過ごしていたわけだが、部屋に四人も呼んだのも初めてだったし、なにか少しの寂しさを感じる。
(駅まで送らなくても良かったのかもな)
帰る時に俺は「駅まで送りますよ」と言ったのだが、成美先輩がそれを「良いよ。そこまでしなくても」と断ったのだ。俺は悠樹の如く少し頑固に出てみたのだが、成美先輩に加え渚先輩までも「護君に悪いから」と言ったのだ。流石に、それ以降は俺も自分の意見を前に出すことはしなかった。
「護ー」
しばらく玄関でぼーっとしていたら、リビングから母からの声が聞こえた。
「何?」
「暇なんなら、晩ご飯買ってきてもらえるかしら?」
「良いけど……、今日のご飯は何?」
「餃子なんだけど」
「了解」
「じゃ、お願いね。はい、五千円」
母さんから手渡された五千円札を手に、俺は一旦部屋へと戻り、それを財布に入れ、俺は家を出た。
〇
俺が向かったのは、家から自転車で十分ほどの距離にある御崎スーパーだ。御崎スーパーといえどもこの御崎市には、御崎という冠がついている建物は大量に存在する。御崎スーパーだけでも俺が知ってるだけでも五個ほどある。
餃子を作るのであればまずは餃子の皮が必要となる。
「餃子の皮ってどこら辺に売ってんだか…………」
あまり買い物はしない為分からない。
しばらくの間、ふらふらしていると見知った姿を見かけた。あの後ろ姿は悠樹ではなく。
「氷雨?」
「護さん。久し振りです」
「そうだね」
俺は少し早足で氷雨の横に並ぶ。
「護さんも買い物ですか?」
「うん。母さんに頼まれちゃってさ」
「そうなんですか……」
「そういう氷雨は?」
「私ですか? 私も晩ご飯の買い物です。今日は私が作る番なんです」
「今日?」
「はい。平日は私と時雨とで交代で作ってるんです」
ん? 時雨ちゃんと交代?
「悠樹…………先輩は?」
危ない危ない。また呼び捨てにするところだった。まぁ、氷雨の前なら別に良い気がしたけれど。
「ゆう姉ですか? ゆう姉には休みの日に主に作ってもらってます」
「なるほど」
「護さんの家の晩ご飯は何ですか?」
「ん? 餃子だよ」
「そうなんですか。実は、私も今日は餃子にしようと思ってたんです」
「一緒だね」
「はいっ 」
俺と氷雨はそれから餃子の皮、ひき肉、ニラ、葱、キャベツ半玉、ニンニク、ナツメグを買い、レジを通った。
袋に買ったものを詰めていると氷雨が。
「あ……………………っ!」
「どうしたの?」
「キムチを忘れました」
「キムチ?」
「はい。普通の餃子も作るんですが、何個かキムチ餃子もつくるんです。以外と美味しいですよ」
「へぇ。そうなんだ」
「はい。じゃ、買ってきます」
「了解」
「あ、そうだ。護さんは自転車で来たんですか?」
「ん? そうだよ」
俺は近くの駐輪場に止めてある自転車を指し言った。
「そうなんですか……」
氷雨のすこし残念そうな表情を汲み取った俺は。
「氷雨は、歩いて来たの?」
「はい。近いですから」
そう言われ、途中にあの豪勢なマンションがあったことを思い出した。
「一緒に帰る?」
「で、でもそれなら、護さんが帰るのが遅くなります」
「そんなこと気にしなくて良いよ。帰り道にあるんだし」
「本当に、良いんですか?」
「うん。良いよ」
「ありがとうございます 」
俺はその少しは悠樹に似た笑顔を見て、少しドキッとさせられてしまう。
一番最初に会った時から考えると、仲良くなれるとは思ってなかったから。
氷雨の歩数に合わせて、俺は自分の歩くスピードを調節する。が、それでも歩くスピードの差があるらしく、少し離れると氷雨はトットットと走ってくる。
「歩くの早いか?」
「あ、いえ。気にしないでください」
そう言われたものの俺は少し歩くスピードを落とした。
それに気付いた氷雨は。
「別に、気にしなくてもいいって言ったじゃないですか…………」
「そう言われても、気になっちゃってね」
「護さんらしいですね」
「そ、そうかな?」
「はい」
そうこうしているうちに、マンションが近づいてきた。
「わざわざ、すいません」
「いいよ。気にしないで」
「はい。あ、護さん」
「ん? どした?」
「メールアドレス、交換してもらってもいいですか?」
「うん。良いよ」
俺はジーンズのポケットに入れていた携帯を取り出し、氷雨の携帯との赤外線通信を終わらせる。
「ありがとうございます」
「うん。また何かあったら連絡してくれれば」
「はい。それでは失礼します」
「おぅ。バイバイ」
俺は氷雨がマンションへと入るのを確認してから、俺は自分の家へと自転車を走らせた。
〇
部屋に戻るとそれを見計らったように携帯が鳴った。
「羚か、どうした?」
「な、お前さっき買い物してたよな」
「おぅ。そうだけど……」
「その時、女の子と一緒にいただろ?」
「あぁ、そうだが…………。それがどうした?」
「どうしたじゃないだろ!! お前ばっかり女の子と仲良くなりよって」
「そんなこといわれても…………」
「まぁ、良いさ。さっきの子は?」
「氷雨のことか? あぁ、悠樹先輩の妹だな」
「妹か……………………」
その後に電話越しに、グヘヘヘヘという変な笑い声が聞こえた。
羚よ。将来変な方向にはいかないでくれよ。心配だ。
「で、要件はそれだけか?」
「あぁ。そうだが」
「じゃ、切るぞ」
「おぅよ。また明日」
はぁ……………………。
いやいやいや、本当に切るのかよ。
羚はなんというか女の子には見境がないというか。てか、それを聞くだけに電話してきたのか……。
またしても、携帯に受信が入った。
今度はメールだった。
(また羚か……?)
そう思い画面を開くと成美先輩からだった。
その成美先輩からの文面は、「今、時間とれる? 」というものだった。
俺はすぐに「どうしました? 忘れ物ですか? 」と返した。
そして成美先輩からもすぐに返ってくる。
「そうじゃないよ。今から少し会えるかなぁって思って」
「今から、ですか?」
「うん」
成美先輩からのメールは一分も待たずに返ってくる。
「構いませんけど…………、場所どこにします?」
「護の家の近くに公園があったでしょ? そこでいい?」
「はい。分かりました」
そのメールを最後に俺は公園へと向かった。