穏やかなお昼? #2
心愛はその場から動けなかった。護と咲夜を見てしまった瞬間から。
自分の目の前にある現実を直視出来ない。
思考停止。考えることが出来ない。何故、二人でいるのか。何故、咲夜はあそこまで笑顔を見せているのか。心愛には分からない。
「あ……………………」
護と咲夜の姿が見えなくなってしまった。当然、こちらに気付く様子もなく。楽しそうに。咲夜は輝きを放っている。
(分からないなぁ)
何もかも、分からない。
別に、問題があるわけではない。護と咲夜が二人きりでいたとしても。護のことを想っているし、告白もしている。でも、それだけである。付き合っているわけではない。例え、今付き合っていたとしても、心愛はそこまで護を縛ろうとは、独占しようとは思わない。周りの関係性を見ていて、それは無理だと思うから。
「嫌、だなぁ…………」
嫌、という感情は少し違うかもしれない。感情を抱くことは、咲夜に対しても失礼だ。
少なくとも、咲夜は護に好意を寄せていないと思う。人として、となれば話は別だ。
(もぅ…………)
好きではない。心愛はそう切り替える。咲夜が護のことを異性として好きになる可能性があるのかと問われれば、心愛は、ないと即答する。機会も少ないだろうし、そもそも今の状況を知って攻めてくるはずがない。心愛はそう思う。佳奈の執事という立場上青春部の事を知っていて、皆の気持ちを知っているのだから。
「あ」
(違う)
心愛の中に疑問が生じた。
自分だってそうだ。護には薫がいた。葵がいた。それなのに、心愛は護にアタックをかけた。気になりだしたのは4月の頃からだが、自覚し、行動に出たのは、二人とも仲を深めた後だ。
矛盾。
自分の意見を自分の行動で否定する。
だとしても、咲夜を想定して考える必要ないと、心愛は自分に言い聞かせる。立場も環境も違う。有利なのは間違いなくこちら側だ。負けないし、負けたくない。負けていいはずがない。邪魔されたくない。
「疲れるなぁ」
考えることがいっぱいだ。やらなくちゃいけないことがいっぱいだ。
何が最善手なのか。常にそれを考え、行動する必要がある。それが正解かどうかは結果が出て初めて分かることだが、悪手を取っていれば失敗するし、期待値も下がる。
(……………………よしっ)
両頬を叩き、気合いを入れ直す。
落ち込んでいる場合ではない。前を向き、行動あるのみだ。