穏やかなお昼 #2
「おはようございます。護様」
護だ。護が休日に一人でいる。護の背後や周りを確認してみても、やっぱり護は一人だ。一人きりだ。
「おはようございます……って、どうかされましたか? 咲夜さん」
「あ、いえいえ。珍しいな、と思ったものですから」
「珍しい…………?」
「えぇ」
初。一人でいる護を見るのは、これが初めてだ。メールや電話では個人としての関わりはあったが、今は何もない、鉢合わせただけという形。そこに、佳奈や青春部との関係性はない。
「そういえばそうかもしれませんね。一人ですから」
「あらあら。本当にそうでしたか。でも、活動がない時は?」
「それでも少ないですかね。姉もいますし」
護の苦笑い。
「護様のお姉様ですか」
(そういえばそうでしたね)
佳奈や杏から聞いたことがあるだけ。当然実際に会ったことはない。機会もあまりないし、今後もそうだろう。
「それで、護様はどうされたんですか?」
「文化祭に必要なものをちょっと」
「喫茶店、でしたね」
「はい」
咲夜は、護達のクラスが何をするのかを知っている。教えてもらっている。協力をお願いされた時に、咲夜がしつこく聞いたのだ。衣服を提供する見返りだ。
「なにか、足りないものがありましたか……?」
「いえいえ! 大丈夫です。はい」
「それは良かったです」
「ありがとうございます。咲夜さん」
「はい。護様のお力になれるのなら」
誰かの力になることが出来れば、と思う。護だけではない。青春部に対しても。麻枝家の執事として、関わっている。咲夜は高校生ではないし、学生の身分はもう卒業している。佳奈を通じて。佳奈がいるから、咲夜は青春部の皆と関係を持つことが出来ているから。本来であれば無関係な立場にある。
「それでは、何を買うのですか? 護様」
「えっと……。小物を」
「ふむふむ。私も一緒に考えましょう」
「え!? そんな」
「大丈夫です。時間がありますから」
やることが出来た。ベンチで時間を潰していても持っていないわけで、咲夜も雑貨店などがあれば行ってみたかった。一人ではない。護がいる。より、意欲が増す。
「時間……? 思えば、咲夜さんがこんな所で一人なのも珍しいですよね」
「えぇ。お嬢様に言われてしまったので」
「佳奈に、ですか?」
「はい。今日一日はしっかり休んでくれと。私はいらないと言ったのですが」
「あはは。佳奈らしいですね」
「えぇ、叶いません」
逆らう、逆らわないといった問題ではないけれど。
「では、行きましょうか。護様」
通行人の邪魔にもなるので、立ち話はここまで。続きはいつでも話せる。
「はい」