フェスティバル #16
「大切…………、か」
「うん」
麻依は、悠樹の言葉を繰り返す。
(大切、大切……)
一度目は声に出して、二度目、三度目は心の中で。
そういった感情があるのは素晴らしいことだと、麻依は思う。悠樹も、悠樹にこう思わせる護も。
麻依には分からない。勿論、悠樹は大切だ。でも、麻依が悠樹に思っている大切という感情と悠樹が護に感じているそれは、当然意味合いが違ってくるものになる。
(愛ってなんだろう……)
麻依はこれまで、恋愛について無関心だった。自分はこういう性格であるし、他人を好きになるという感情がなかった。だから疑問に思うし、これほど人を好きになれる悠樹は素晴らしいな、と麻依は思わされる。
相手のことを大事に思ったり好きになったり。相手によって自分が満たされたり。悠樹を見ていると、愛というのはこういうことなのだろうとも思える。
「いいね……。そういうの」
「ん………………」
恋をしたことがないから、実体験としてそれがどういうものなのかは分からないけど。
悠樹とは一年生の時も同じクラスで、麻依は悠樹のことをずっと見てきた。同クラスの中では一番悠樹を理解しているはずだ。
だから、分かる。悠樹は変わったと。今年度になってから、護と出会ってからの悠樹は変わった。
それほど表に出すタイプでもないし、それは麻依も同じ。明るくなった。去年一年に比べて笑顔が多くなった。麻依はそう思っている。
「麻依ちゃんは……、いない、の……?」
「うん。いいかな…………。今は」
「そう」
悠樹を見ていると、人を好きになる、人のことを想うことは、良いと思う。でもそれは、恐らく、自分じゃないからだ。自分が当事者じゃないから、そう思うのだ。麻依にはその感情が分からないから尚更だ。
好きになる。ただそれだけじゃない。葛藤も、苦悩もある。何も楽しいことばかりではない。それも、悠樹を見ていれば多少分かる。
(うん……)
したいとは思わない。思ったこともない。そういう機会がなかったのだから麻依の意識より振り切れてしまっているわけだが、この先も異性を好きになることはあるのかな、と考えてしまう。
麻依は高校生だ。二年生だ。思春期であるし、そういった交流があっても不思議ではない。だけど、麻依は興味がない。
「麻依ちゃん……? どこ行くの…………?」
「へ……………………?」
横から聞こえていたはずの悠樹の声が、後ろから響く。悠樹は歩みを止めている。
「護の教室、ここ」
「あ……。ごめんね……」
意識が、完全に自分の内面に向いていた。