フェスティバル #15
隣に麻依がいる。別に、新鮮なことではない。教室移動などの際もいつも麻依と行動しているし、休み時間なども、ほとんど麻依と一緒にいる。
いつもと違うこと、といえば、向かってる先が護のいるクラス、ということだ。
麻依には何度も護の話をしているし、あの七夕パーティーの場にも麻依はいた。だから、麻依と護の繋がりはそれなりにある。二人でどこかに行った、などといった話は悠樹の耳には入ってきてないし、麻依からもそういう話は聞いていない。
「あ…………」
「悠樹ちゃん……? どうかしたの…………?」
「ううん……。なんでも、ない」
「そう」
一つ、言ってないことがあった。大切なこと。自分と護とのこと。青春部のメンバーにも"まだ"言えてないし、麻依にも。
言わなければならない。しかし、タイミングを失っている。あの旅行の後も、二学期が始まってからも。
言うタイミングがなかったわけではない。たくさんあっただろう。皆の前で言えれば一番いいのかもしれないが、それはそれでかなり恥ずかしいし、別にそうする必要もない。成美に言う、渚に言う、そうすれば良かったかもしれない。護と揃っていう必要もない。自分の意思で、自分のタイミングで伝えればいい。
だけど、言えていない。麻依にすら。
伝えたらどうなるのか。そんなこと、ちょっと考えれば考える分かる。祝福してくれるだろう。だが、今ではない。今は、文化祭が迫っている大切な時期だ。やるべき事がある。言っていい事柄ではない。
「ねぇ……、悠樹ちゃん…………?」
「なに?」
「悠樹ちゃんは……、どれくらい好き、かな……?」
「ん…………………………?」
その麻依の質問に悠樹は首を傾げたが、すぐに護のことを言っているのだと理解した。
「どれくらいかは分からない。好き、大好き」
「うん」
「大切。護は」
大事な存在だ。悠樹にとって護は必要な存在だ。
自分のため、と言われればそれを否定することは出来ない。別に、この恋愛感情に損得があるわけではない。護が好き、とそう認識してから、必要になった。護が好きという想いがあるから、悠樹は頑張れる。護がいるから、何か嫌なことがあったとしても安心できる。
だって、護が隣にいてくれるから。これ以上、安心できることはない。