フェスティバル #14
まず悠樹が向かった先は、護のクラス。葵も心愛も薫もいる、賑やかなクラスだ。
何をするのか、悠樹は護から詳しくは聞いていないが、喫茶店をするとかしないとか。メイドとか執事とか、葵からもチラッと教えてもらった。
ワクワク。今行くとこの感覚を損なうことになる。当日まで待てば待つほど期待値が高まるわけだが、本番は本番でまた別の楽しさがあるので、悠樹はそれほど気にしない。
(護は……)
どっちの衣装を着るのだろう。
メイド服? 執事服?
正確な値は知らないが、護は大きい。百八十は超えているかなと、悠樹は思っている。だから、似合うのは執事一択。護の女装姿、メイド姿も少し見てみたい気もするが、悠樹は後者を推す。
「ゆ…………、悠樹……っ、ちゃん…………!」
部室を離れ、職員室に鍵を返そうとしたそのドアの前。背後から、聞きなれた親友の声が飛んでくる。
「麻依……………………ちゃん……?」
「やっと、見つけた……………………」
「どうかしたの…………?」
ドアを開けようとした手を下ろし、悠樹は麻依の方に体を向ける。
「いや……………………、特に何か、あったわけでは……ないんだけど……ね?」
肩を上下に動かし、麻依は必死に息を整えている。麻依がこのような行動に出ることはあまりない。基本的に悠樹と似てのんびりしている。悠樹も親友として、自分と近いところがあると、麻依を評価している。良いところも、悪いところも。
「青春部にもいなかったから……、どこに……いるのかな…………、って」
「む……。入れ違い……………………」
麻依に鍵を見せる。
「そっか………………。心配、した…………よ?」
「心配……………………?」
意外な言葉が飛び出てきた。親友である麻依に心配をかけるようなことをしているつもりは微塵もない。
「元気、ないから………………。文化祭近付いてるのに」
「そう…………かな……? 分からない……」
麻依からみれば無自覚なのだろう。互いにそういうところがあるわけだが。
「うん…………。悠樹ちゃんが大丈夫…………なら」
「ん…………。ごめん」
感情はあまり出さない。出さないというより出せないに近いかもしれない。出す必要もあまり感じない。
(でも)
ずっと一緒にいる麻依が、ずっとといっても高校生活からだが、そういう反応を示すということは、やっぱり出てしまっていたということなのだろうか。
時雨や氷雨にも言われる。感情が変わった、と。
「この後、どうするの…………? 悠樹ちゃん」
「ん……。護のところ、行く………………」
「護君の……?」
「そう」
「私も……、行くよ……」
「分かった」