フェスティバル #11
「いやぁ、悠樹ちゃんは良い子ねぇ。片付けも手伝ってくれるんだから」
部屋に戻ろうとしたところ、母さんに止められる。夕飯の後片付けは俺もたまに手伝ったりはするが、今日は、悠樹がやってしまった。
「そうだな」
「毎日手伝って欲しいくらいね。護もやってくれていいのよ」
「俺はちょっと……」
苦笑い。作ってもらっているのだから手伝うのは当然といえば当然だが、そこまでやろうとは思わない。何故か、と理論的に答えられるわけではないが。
「別にいいんだけどね。母さんもそれを望んでいるわけじゃないから」
強いていえば、母さんの言う通りである。それ以上でもそれ以下でもない。
「部屋戻っていいか?」
課題やらなんやら、しなければならないことが溜まっている。文化祭の準備もあって、時間が惜しいのが現状だ。やれる時にやっておかなければならない。
「うん。いいわよ」
「おっけ」
「あ、そうだ」
前につんのめりそうになる。
「また連れてきていいのよ。悠樹ちゃん」
「今日は別に俺が連れてきたわけではないけど。まぁ、言っておく」
「あら? そうだったのね。うん、そうしてちょうだい」
「ほいほい」
〇
「ふぅ……………………」
窓から涼しい空気が流れ込んでくる。暑くもなく寒くもなく過ごしやすい秋は好きだ。無理に着込む必要がないし、軽い格好をする必要もない。
「おーい。護ー」
窓の向こう。風と一緒に薫の声が乗ってやってくる。
「どうしたんだ」
窓際に行き、応える。こうやって話すのではあればメールや電話でもいいと個人的には思うが、そう薫に伝えたら、「これがいいの」と笑顔で言われてしまった。それほど大きな声を出すわけでもないし周りの人間に聞かれるといった心配はそれほどしなくてもいい。ましてや夜だと、住宅街といっても人通りは少ない。
というか、部屋に入った瞬間これだ。待ち構えていたのか?
「いやー、別に特に用事はないけどさ。話そうよ」
「そうだな」
時間が惜しいとさっき言ったが。
(ま、いっか)
時間をその分後にズラせばいいだけだ。提出期限が迫っている課題もそれほど難しいものではない。すぐに終わるだろう。
「さっきは、何してたの?」
「さっき……………………?」
「うん」
(まてよ?)
「分かってて聞いてるだろ。薫」
「てへっ。バレちゃった」
「てへ、じゃねーよ。まったく……。悠樹がご飯一緒に食べたいって言うからさ」
「そういうことだろうとは思ってたけどねぇ」
まぁ、基本的に、悠樹の行動は分かりやすい。あまり突拍子もないことはしないし。ほんの少し、たまにあれ?って思ったりすることはあるけど。
「なんだったの? 晩ご飯」
「肉じゃが」
「えぇー、いいなぁー。あたしも食べたかったなぁ…………………………」
「まだ残ってるから、明日の昼にでも食うか?」
「え、お昼……に…………!?」