フェスティバル #10
「ただいまぁ…………」
悠樹が見えなくなるのを待ってから、薫は家に入る。
「今日はいつもより遅かったのね……。って、どうかした? 薫?」
母が心配そうにこちらを覗いてくる。
「え? え? なんにもないよ」
「そう? ならいいんだけど」
「うんうん」
何もないわけではないが、気にする必要もないといえばそうなのである。後、恐らく、母は気づいているだろう。気づいていない振りをしているのだ。母とはそういうものであるし、薫は何度も、母のそういった部分を感じている。
自分の行動の結果だ。あそこで、薫は悠樹に護を譲った。一緒に帰ればよかったのに、そうしなかった。だから、悠樹は護の家にいた。
だから、仕方ない。
(んー……………………)
自室に戻った薫は、布団に寝転びながら考える。
"仕方ない"
そう思うことが多くなった。無論、高校生になってからだ。まだ数か月。当然中学時代の方が何年も長いわけだが。
(はぁ…………)
「だってねぇ…………………………?」
(はぁ……)
再度溜息をつく。
護は自分だけの物じゃない。分かりきっていることだ。そのことを、高校生になり思い知らされた形になっている。気がつけば、いつも隣にいたはずの薫が追いやられている。
そして、これは、"仕方ない"ことなのである。
「悲しいなぁ」
青春部に入っていなければ、敵は、恋敵は、葵と心愛だけだった。基本的にはそうだっただろう。少なくとも、護との関係性の構築の上で、青春部に入ったことは失敗だろう。でも、それだけだ。それだけなので問題はないし、青春部に入ったこの行為だけで、護とのこれまでが破壊されるわけではない。
薫は何度も思っているが、自分の強みはそこである。たかが数か月の関係ではない。何年も、十何年もある、護との付き合い。これは誰にも負けないし、誰にも超えられないものだ。
もっと。もっとなのだ。
夏休みはもう終わってしまっている。文化祭準備も進めないといけないことから、クラス単位での活動が多くなる。青春部にでもあるが、比重はクラスに置かれる。
(まもる…………)
「うぅー……………………」
布団を手繰り寄せ、顔を埋める。
護は委員長だから、同じ委員長である葵に取られる。薫より葵だ。手伝うという最もな理由をつけたとしても、心愛がやってくる。同じクラスであるし仕方ないことでもあるが。
(まただ……………………)
仕方なの無いことばかりだ。中には薫の努力でどうにかなるものもあるかもしれないが。
「ん……………………っ。護……」
寂しくなる。少し。
いや。
(とても)
「薫ー? 何してるのー? ご飯食べに早く降りてきなさーい!」
そうだ。まだ食べてなかった。
「はーい。今行くよー」