フェスティバル #8
(む…………)
そこは遥の席ではない。今日、その席は護のモノであり、悠樹のモノでもある。いくら遥でも、友達であっても、その場所を犯すことは許されない。
だから悠樹は、遥を見る。当然口には出さないが、思いを視線に乗せる。
護は何も思っていないようで、いつも杏が座っている席に腰を下ろす。そう、杏がいないのだから、別の椅子を持ってくる必要はない。
(……………………む)
遥に取られてしまった。
仕方ないので諦める。これが毎日続くのから困るが、そうではない。今日だけだ。そもそも、遥は部員ではないのだから。些細なことだといえば、些細なこと。悠樹の立場を考えれば、気にするようなことではない。その程度のこと。
「ふぅ……………………」
遥が安堵したかのように息をもらしている。やはり、分かってやっている。そこに好意はないだろうが、わざと護を取った。わざわざそこに乗った。そういうことだ。
(…………まぁ)
〇
「ん、帰る」
チャイムが鳴った瞬間に、悠樹は立ち上がる。
「もうそんな時間かぁ……」
今日もいつも通り。何か特別なことをしていたわけではない。他の人から見れば、これは時間潰し、暇つぶしにしか見えないだろう。時期的に文化祭についての話し合いをしなければならないが、杏がいないと進まない。杏が部長なのだから、杏抜きで、というわけにはいかない。決定権は杏にある。杏が決めて、最終的に佳奈が承認する。この青春部には佳奈もいるので、そこのプロセスが破綻しているような気もするが。
結局、遥は最後までいた。一時間くらいだが、護の席は遥によって占領されていた。なので、悠樹は自分から護の元に向かう。一緒に帰るために。
二人きり、とはいかないが。そこに固執する必要もないわけだが、得られる時に得ておかなければ。
「どうしましたか、悠樹」
「ん、帰る……。一緒に」
「えぇ、そうですね」
皆を見渡して護はそう言う。
「私と遥が鍵を閉める。みんなは帰っていいぞ」
「えぇ!? あたしも!?」
遥が驚いているが、悠樹には関係ない。佳奈の言葉に従うだけ。
「そうだ。最終確認もしないといけないからな」
「わ、分かりました…………」