フェスティバル #6
「あ…………………………」
遥は、声を漏らす。護が葵と一緒に帰ろうとしている。
「どうかしたか?」
「いえ……。なんでもないですよ」
「分かった」
佳奈に声をかけられ、護達を引き止める手段を失ってしまう。
(あーあ…………)
今日の機会を失ったわけだが、落ち込む必要はない。この文化祭期間は会う回数も多い。体育祭でもだ。生徒会役員とクラス委員長は、協力しなければならない。お祭りを、イベントを成功させるために。
(楽しい、な)
生徒会が表に立つわけではない。当然、裏方だ。メインは、それぞれの生徒だ。遥は、リーダーや何かをやるより、今みたいに支える方が好きだ。副会長というのも、会長を支える役職だ。やるべき事は多いが。遥や佳奈、役員は、この二つを得ることになる。二つの違う立場。
「佳奈先輩、佳奈先輩」
「ん? どうした?」
「この後、部室……、行きますか?」
「うーん。どうだろうな…………」
会議室に飾られている時計の針は、五時半を指している。完全下校時刻まではまだ時間がある。
「遥は行きたいのか?」
「い、いえ…………っ! そういうわけでは」
「そんな否定しなくてもいいだろう?」
「うう」
勢いで言葉を発してしまった。さっきも言ったが、護に話しかけられなかったことについて、遥は後悔していない。でも、会って他愛もない会話が出来るのなら、それは今が良い。
「行こうか」
「え……………………?」
「青春部」
「いいんですか……?」
「あぁ。資料作りもまた明日やればいいし、行かないと杏もうるさいからな」
「わわ。ありがとうございます」
(やった)
〇
(嬉しそうだな)
遥と一緒に青春部に向かう。立場上、遥と共に行動することは多いが、その先が青春部となればそれはまた別の話。遥は部員ではないのだから。
「あ、佳奈先輩。それに、遥も」
「お邪魔するね」
部員以外の人間が部室に入ってはいけないなどの決まりはない。誰でも可能だ。
「杏はどうした?」
「今日は来てないですよ」
「そうか」
(なんと)
杏のために来たというのに、本人がいないとは。仕方のない部分はあるが。
そして、加えて。
「護は? いないの?」
護と葵は、佳奈と遥より先に会議室を出たわけだが、その姿が見えない。
(来ないつもりか?)
それだと遥を連れてきた意味がない。
「会議があったんじゃないんですか?」
「それはそうなんだけど……。さっき終わったの。だから、来てるかなって」
「あれれー? 遥も護狙いかなー?」
「ち、違うわよっ……。違う違う」
「あはは。ごめんごめん」
成美と遥のやり取りを横目に、佳奈は空いてる席に座る。今更だが、杏がいないと、同年代がいなくなってしまう。寂しくなるわけではないが、杏はここにいるべきだ。