再び #6
杏先輩が帰った後、佳奈も生徒会役員に呼ばれてしまい、二人が欠けた状態になってしまった。昨日は全員が集まることすらなかったのだから、それを考えれば十分といえば十分。
文化祭が迫ってきているから、役職についている面々はどうしてもいそがしくなってしまう。俺も葵も、あと少しで仕事に追われる日が来る。
「ぶん………………か……さい……」
悠樹は編み物をしながらブツブツと呟いている。誰に作っているのか何を作っているのか、現段階では分からない。後の楽しみに取っておくというのが最善の選択肢。
(何がいいかねぇ)
自分のところのクラスの出し物でさえ固まっていないのに青春部のも考えるというのは、なかなか酷な話だ。同じものをやるわけにはいかないし。
全員のクラスで被らないようにするってのは、案外難しいんじゃ……。
〇
(どうしましょうか……)
葵は頬に手を当てて考える。
青春部とクラス。委員長なのだから、もちろん優先されるべきなのはクラスの方。こちらの出し物は後回しにするのが当然だ。
青春部には、護がいて心愛がいて薫がいる。昨日も、この四人でクラスで何をするのかの案を出し合っていた。だから、ある程度の配慮は出来る。
クラスに関しては、先生が言っていた期日まで、まだ時間がある。しかし、準備期間が長いことに越したことはない。
(うーん……)
「護君、ちょっといいですか?」
耳打ちし、護を呼びつける。
「どうした?」
「外で……少し」
「ほいほい」
出し抜くつもりは一切ない。分かってもらえている。誰も追随してこない。純粋に。
「で、どうした?」
「クラスの方なんですけど、明日のホームルームで提案しますか?」
「明日!? また急だな」
「えぇ。青春部のこともありますし……、はやめはやめと思いまして」
「そうだな……………………。出す案はどうする?」
「昨日決めたものでいきましょう」
「分かった」
「ありがとうございます。あ、あと……、演劇の件なんですけど、もしクラスの出し物が演劇に決まった時は最大限力を貸すということです」
「お、それはありがたいな」
「えぇ。助かります。そのあたりの知識はありませんからね。私達」
興味が無いわけではないが、中学の時の文化祭で他クラスの演劇を見た程度。どこかに出掛けて観たりとか、そういうことは一切ない。
「それでは、そういうことで。部屋、戻りましょうか」
「そうだな」
二人きりの時間はこれでおしまい。意識はそれほどしてないしそういう感覚もほとんどないが、その事実は変わらない。
(それに……)
しばらくの間は、こういう風な機会が増える。そういう立場にいるのだから。機会としては捉えるが、その度に意識していてはもたない。葵はそう思う。