不信感 #4
(さてさて……)
夕方にもなり、道路には小学生や中学生の姿が多くなる。そんな中を執事の服装で一人歩く咲夜。買い物帰り。近くのスーパーだ。車を使う必要などない。
その光景は少し異様なものではあるが、ここでは見慣れた光景ともいえる。咲夜だって周りの人間との関わりがないわけではない。もちろん、これまでの間にそれなりの関係性を作ってきたつもりだ。声を掛けてくれる人は多い。たまにご飯を分けてくれる人だっている。
自分達だけでは生きてはいけない。社会との繋がりが必要である。地域の中で生きていかなければならない。そのためのものだ。生きる上で必要な付き合い。決して、苦手だからという理由でそれをやめてしまっていいものではない。
佳奈はまだ未成年であるし、自分はもう大人だ。佳奈の両親は家を空けることが多いのだから、実質保護者は誰だと言われれば咲夜だということになる。
(おこがましいですけれど)
立場を考えるとそれは失礼になるが。間違ってはいない。
「おっと…………」
小さい衝撃が前からやってくる。手に持っている荷物を、今日の晩ご飯の材料を落としそうになったがなんとかキープする。
「ご、ごめんなさい!」
小学生だ。相手も不注意だっただろうが、こちらも考え事をしていて周りを見ていなかった。
「はい。大丈夫ですよ」
ぺこり、と。可愛い一礼。その子は走って友達の輪の中に戻っていく。
「帰りましょうか」
最近佳奈の帰りが遅い。二学期が始まったこともあり仕事が増えているのだろう。文化祭や体育祭。この時期は大きなイベントがある。
(懐かしい、ですね……………………)
小さい頃から麻枝家にいた。佳奈を見てきた。自分が学生の間も。振り返ってみると、学生として何か自分からすることはあまりなかった。
学生として、執事として、その両立をしなければならなかった。優先順位が高いのはもちろん後者。それはもう仕方のないことだ。
「あれ…………?」
家の前に一つの車。見かけない黒塗りの車だ。そんな車に、一人の女性がもたれかけている。
無視出来ない。麻枝の家の人間を待っているのは雰囲気で分かるし、避けて家に戻ることは出来ない。
(む……)
あちらはこちらにまだ気付いていないようだ。咲夜だけが、認知している。
(どうしましょうか)
どうするのも何も決まっているわけではあるが、面倒な事に突っ込みたくはない。厳密に言えば麻枝家の人間ではないわけで。なにか込み入った話があるのなら、当然佳奈や母と父の方が良い。
思わず溜息をつきそうになってしまう。
「すいませんが……」
ジッとしていても仕方がない。
一呼吸おいて。
「どちら様でしょうか? うちに……、麻枝家に何か?」