不信感 #2
「あ…………」
(おっと…………)
氷雨を見送り、時雨はすぐに家に戻る。扉を開けようとしたが鍵がかかっており、思わずつんのめってしまう。悠樹がいるから開いてると思っていたが、氷雨はちゃんと戸締りをしていたようだ。
(そう、だね……)
マンションであるし、階も高い。基本的にはそういった心配はする必要はないが。今は必要である。悠樹の為にも。
「ゆぅ姉……っ! ただいま!」
帰ってきたよ、と。知らせる。
リビングの電気がついている。氷雨が付けたまま買い物に行ってしまったからだろうか。
もしくは。
「おかえり……………………。しぃ」
ちょこんと、おとなしく、小さく。悠樹はソファの上に座っている。普段からそうだ。堂々としているわけではない。少し安心できる。時雨はそう思った。
「部屋……………………、戻らないの?」
「ん。ここで、いい……………………」
「でも……」
「大、丈夫……」
テレビもついていない。ラジオもなにも。光だけが。
「分かった。私もここにいる」
「しぃは……、部屋にいていいよ。ここじゃなくても…………」
「ううん。ゆぅ姉の隣にいる」
「ん…………………………」
いつも通りといえば、いつも通りだ。でも、違う。
(うん)
おとなしい。時雨は悠樹の状態をそう表現した。
それは何も間違っていない。しかし、それにだって限度がある。こちらから話しかけたり何かアクションを起こせば返してくれる。でも、それだけなのだ。悠樹から動くことはない。
(護さんがいれば……、違うのかな………………?)
あの女が来てからも、護に会いに行く時の、青春部に行く時の悠樹は元気だった。無理をしている。そうは思わない。ちゃんと、護に相応しい悠樹を演じている。護に心配されることがないように振舞っている。時雨はその場にはいなかったが、そうであることは容易に想像出来る。
今の時雨に、時雨と氷雨に何ができるか。隣にいるだけだ。邪魔をさせるわけにはいかない。自分達が悠樹の盾に。
「あ、ゆぅ姉、今日学校行ったの……?」
「いって、ない」
「そっかぁ……」
「明日は……、考える…………」
「行ったほうがいいよ」
普通は、行かなければいけない。護にも会えるのだから。あそこには、味方がたくさんいる。もちろん、時雨と氷雨だけではない。護だけでもない。
「ん……」
「ゆぅ姉…………?」
悠樹が身体を預けてくる。肩に、ゆっくりと。悠樹の重さ、想いを感じる。