不信感 #1
(暗い)
自宅に戻ると、家の一切の電気が消えていた。まだまだ外は明るいし、カーテンを開けていれば外から光が差し込んでくるが。
真っ暗だ。
(ゆぅ姉……)
悠樹の靴がある。本来なら悠樹はこの時間に家にはいないはずだ。
何故か。
部活があるからだ。青春部の活動があるからだ。久しぶりに護に会えるのだ。わざわざ会わずに帰ってくるなんて有り得ない。氷雨はそう思う。
「はぁ……………………」
ある程度の推測はできる。姉が、悠樹がどういう状態にあるのかは。
部屋をスルーし、リビングへ。閉まっているカーテンを勢いよくあける。
(ついでに窓も)
空気の入れ替えだ。こんなところにずっといると、気分まで落ち込んでしまう。
一気にリビングに光が入り込んでくる。その光は、ソファに体育座りをしている悠樹の姿を照らす。
「ゆぅ姉……………………?」
「なに、ひぃ?」
「ううん…………。なんでもない…………」
「ん」
(うーん…………………………)
仕方がないといえば仕方がない。でも、この状況はなんとかしなければならない。
あの女を家にあげてしまった。止めることができなかった。そして、あの時、氷雨は時雨を置いて逃げてしまった。二人で追い返せばよかったものを。だから、ある意味、氷雨の責任であるともいえる。
また、というその言葉の通り、あの女はまた現れた。
もちろんその時は悠樹はいなかったし、そのことを悠樹には言っていない。伝える必要もない。
「ねぇ……………………、ひぃ」
部屋に戻ろうとしたところ、後ろからか細い声がくる。
「なに? ゆぅ姉」
「買い物……、いってきて…………」
「あ、今日あたしだっけ」
「ん…………。ひぃの番」
「忘れてた……………………。すぐ行くよ」
「ありがと」
〇
「あ……、ひぃ姉」
「おかえり」
「うん。ただいま」
買い物に行こうとしたところで、ロビーで丁度帰ってきた時雨と鉢合わせになる。
「買い物……?」
「うん。忘れてたから」
「そう………………。ゆぅ姉は? 大丈夫……?」
「どうだろ」
「そっか…………」
大丈夫、とは答えられない。昔の悠樹に戻ってしまったような、そういう感覚がある。
「じゃぁ……………………」
時雨はゆっくりと口をあける。
「私は家で待ってるね……。ゆぅ姉を、一人にはできないし」
「うん。それがいい」
時雨の言う通り。一緒にいないと。