在り処 #10
「どこに行ってたんだ? 沙耶」
家に戻り、リビングへ。父親からかけられた言葉は、「おかえり」ではなく沙耶を少し詰めるような内容だ。
「別に。どこ、ってわけではないよ」
「そういう答えを求めてるわけではないぞ」
「まぁまぁ」
母が間に。
あの場に沙耶は必要なかった。空気に耐えられなかったというのもある。護があのタイミングで帰ってきてくれたのは丁度良かった。
「護は?」
「お風呂に入るって」
沙耶もそこに混ざりたい。一緒に入りたい。
「言わないつもりか?」
「私からは……、言わない」
(うん)
そう決めた。あの場から逃げた。護を連れて。
「そうは言ってもなぁ……」
「そうね。いつまでも、って訳にはいかないわね」
(……………………)
理解はしている。
「今じゃなくてもいいでしょ?」
護のために。今更慌てるようなことではない。伝える機会は沢山ある。
「それはそうだが」
「二人に任せるわ。お母さんは」
「うん」
重要なこと。間違えてはいけない。護の邪魔をすることは許されない。
(それだけは、絶対に)
〇
シャワーを浴び、すぐに自分の部屋へ。のんびりしてると姉ちゃんが入ってくる。
「あっついなぁ」
風呂に入る前にクーラーをつけておくべきだった。部屋に熱気がこもっている。窓を開けておけば少し涼しくなると思っていたが、あまり効果はなかった。湿った空気が流れてくるだけ。
「お」
「あ……」
窓を締めようとしたら薫と目があった。
「護も、お風呂はいってたの?」
「あぁ。さすがにな」
今日はもう外に出る予定はないし、しばらくはこのままでもよかったが。
「だねー。ヌメヌメするし」
「だな」
バスタオルを首からかけ、服はもうすでにパジャマを着ている薫。ピンクの花柄の可愛いというイメージが先行するパジャマ。見慣れているといえば見慣れているが、可愛らしい服を好んで着るタイプではない。
「このパジャマね」
バレてた。
「通販で買ってさっき届いたんだ。さっそく着てみたんだけど。こういう色はあまり合わないね。あたしには」
「まぁ、な」
嘘はつかない。ついても意味がないことは分かっている。
「可愛いのが合わないってわけではないけどな」
「んー……。心愛にも言われたんだけどねぇ……。たまにはこういうのもいいんじゃないの?って」
心愛か。そうだな。こういうのは心愛の専売特許だ。それぞれの良さを引き立てる服装は、心愛と薫とでは違う。
「違うよね。やっぱり」
自分に言い聞かせるように頷いている。
「そういうことに詳しくないからアドバイス出来るかどうか分からんが、もし新しいのを買うなら手伝うぞ」
「ん、ありがとう」
流行りとかは知らない。無知だ。自分自身の服装にすらこだわりがないんだから、他の人となると。だが、薫は別だ。ずっと見てきている。薫に関してなら分かる。
「それじゃ、またね。護」
「おぅ」