在り処 #9
「おーい、咲夜ー」
大量の洗濯物を洗濯機に。もちろんこの後もすることがあるわけだが、それは咲夜の用を終わらせてからでいいだろう。
(…………?)
扉をノック。だが、向こうから返事が返ってくることはない。
「寝ている……のか…………?」
眠気はある。寝転がろうものなら、一瞬にして意識が飛んでいきそうだ。
そんなことを思いつつ、佳奈は扉をあける。
「やっぱり……」
椅子に座ったそのまま寝てしまっている咲夜。佳奈の頬が少し緩む。
「おーい……。さーくーや」
ゆっくりと。小さな声で。目的は起こすことではない。その可愛らしい反応を見ることにある。
「……………………っ」
ピクリと咲夜の眉が動く。咲夜に対してこのようなことをする機会は滅多にない。
「ふふ」
普段引っ張ってもらっている。助けてもらっている。頼りになる存在だ。咲夜がいなければ、佳奈はこの広い家で一人暮らしをすることになってしまっていただろう。
出来ないということはない。ただ、耐えることはできないだろうと、佳奈は自分のことをそう思う。
「あ………………。私…………、寝て……しまってましたか……………………」
「あぁ。大丈夫か?」
「はい。問題ないです」
「そうか」
「用が、あるんですよね? お嬢様」
そう。そのために佳奈は咲夜の部屋にきた。言いたい事はもう決まっている。
「ありがとう」
〇
「きゅ、急にどうされたんですか……………………?」
佳奈から飛んできた言葉は感謝の言葉。咲夜は困惑の表情を浮かべる。そのような言葉をもらえるようなことはしてないからだ。
「なんでもない。ただ礼を言っただけだ。これまでもこれこらも、迷惑をかけることになると思う」
「いえいえ。まったく問題ないです。私はこの家に仕える身ですから」
普通の行動。親がいないのだから、その役目を咲夜がやるしかない。咲夜と佳奈の年齢差は十。佳奈が小学生の頃からずっと見てきた。毎日。毎日。
「それでもだ。助かっている。昨日までの合宿でもな」
「いえ。私も楽しませてもらいましたから」
それゆえ、椅子なんかで寝てしまっていた。
楽しかった。ワクワクした。昔に戻った気分を味わえた。咲夜は、これに対して借りを返さなければならない。
「力になれることがあればまた」
「あぁ、そうだな」