在り処 #5
何をするわけでもない。公園のベンチに座り、そこで遊んでいるちっちゃい子供を見ているだけ。
時間を潰しているだけ、というは、火を見るより明らかである。
薫ともよく遊んだ公園だ。ハンドボールだけではない。砂場でお城を作ったりなど、色んなことをした覚えがある。
「懐かしいなぁ……………………」
「ん? 何が?」
「昔は、今遊んでる子供みたいに、薫とよく遊んでたなぁって思ってさ」
「あぁ、うん。そうだねー」
懐かしいという感情が出てくるということは勿論、今はその機会が減ってしまっているというわけだ。砂遊びに関してはもうそういう年ではないから仕方ないが、ハンドボールも他に出来る場所があるので、わざわざこの公園ではしない。あれ以来していないかもしれない。
「薫とはどうなの? 最近」
「どうなの、って言われてもなぁ」
青春部での、クラスメイトとしての付き合いはある。だが、それ以上はどうかと言われれば、これもまた、昔のような関係性は薄れてきているかもしれない。
「薫のこと、わかってるでしょうに」
(そうだ)
俺は、誰にも言っていない。悠樹と付き合ったことを。姉ちゃんにも教えてない。だから、姉ちゃんは今そう言ったのだ。
当然、それは分かっている。そこから始まったといってもいい。厳密に言えば、最初は葵だけど。
「だまっちゃダメだよ。護」
「うん」
気持ちは知っている。というか、本人から直接言われているのだから、それを考慮しないのはおかしい。薫の事を考えて、これまでのことを考えた上で、俺は。
(悠樹を選んだ)
他の誰でもない。
〇
携帯を開いたり閉じたり。沙耶はそうして護の返答を待つ。
(そうかぁ……………………)
「薫は、ダメなの?」
そういうことだろう。沙耶は護の姉だ。お姉ちゃんだ。護の表情から見て取れる。
あのメンバーの中で護の一番好きな人が薫であるなら、護はそう答える。
「ダメじゃない」
うん。
「ダメじゃないんだよ」
二回。護は、二回、繰り返した。
「そうだよね」
護の誕生日は三月で早生まれ。四月生まれの薫の方がお姉ちゃん。生まれた時からずっと一緒。沙耶もそこに混じって、二人の成長を見てきた。
薫を選んでほしい、とは言わない。そんなこと言えない。
(欲を言えば)
選んでほしいのは、薫でも他の青春部の人達でもない。だが、それは叶わぬことだ。
護が誰を選ぼうとしているのか、はたまたもう気持ちを伝えたあとなのか、そこまでは分からない。お姉ちゃんとして、沙耶はその相手を応援する。
「あ……」
噂をすればなんとやら。公園に入ってこようとする薫の姿を捉えた。