在り処 #3
十分か、二十分。その程度の滞在時間だったのにも関わらず、あの女は、自分達に多大なる影響を与えて帰っていった。
なんのためにやってきたのか。氷雨は理解出来ていないし、もちろん、悠樹と時雨にだって理解出来ていない。
突然のことすぎた。
(…………………………)
悠樹と同様、氷雨もその場に座り込む。
だが、時雨がこっちに来てくれることはない。時雨はまだ、悠樹のことを気にかけている。お姉ちゃんのことを気にしている。
「ひぃ姉」
「……な、に?」
上手く言葉が作れない。
「…………………………………………」
それは時雨も同じようで。口を開けたりしめたり、何を言おうか、迷ってる風にも取れる。
「いい。やっぱり……」
「……………………うん」
(はぁ…………………)
辛いなぁ、と心の中で漏らす。
どうして逃げてしまったのか。時雨を一人にしてしまったのか。悠樹が帰ってきてくれたから良かったものの。
逃げることは簡単だ。だが、立ち向かうことは難しい。あの場で、氷雨にはそれが出来なかった。
(怖かった)
そう。怖かったのだ。悠樹が留守で、頼れる存在もなかった。
「ごめん、なさい………………」
「大丈夫。ひぃ」
「いいよ……。ひぃ姉……………………」
謝罪。
悠樹が帰ってくるまで、二人で対応するべきだった。そこは、きちんと反省しないといけない。自分の非を認めることが必要だ。
〇
「私だって怖かったんだから…………」
「うん…………………………」
自分だってあの空間から離れたかった。
(なんで急に……)
三人で暮らし始めてから何年が経っただろうか。もう覚えていない。その間、姿を見ることは一度もなかったというのに。関係性は切れているものだと、時雨はそう思っていた。
しかし、今日、こうして自分達の目の前に現れたということは。重大な、自分達の生活が脅かされる何か、が起きようとしていることは間違いないだろう。
「ありがと……。しぃ」
悠樹の目には少し涙が浮かんでいる。
〇
時雨に礼を言い、悠樹は時雨から離れる。慰めてもらうのもここまで。姉として、いつまでもそうしてはいられない。
「どうしよう…………」
これからのこと。
幸せだった三人の生活に亀裂が入った。
幸いにも、今は夏休みであり、青春部皆での旅行というイベントも終わった。この夏休みにしないといけないことはまだまだ残っているわけだが、落ちついているのも確か。今後のことを考えるために時間を取るとするならば、ここしかない。
(……………………)
戻りたくない。