在り処 #2
「悠樹……………………」
「………………………………」
抑えられなかった。この気持ちを抑えることは不可能。邪魔をしないでほしい。心の底からそう思う。
その気持ちが強く、強く。
「ゆぅ姉……………………っ」
時雨が頭を撫でてくれる。何も言わずとも。
落ち着く。落ち着かなければならない。いつまでもこの状態ではいられないし、姉としていけないことだ。
(なんでなんでなんでなんで)
今更何をしに来たのか。悠樹には理解できない。
「…………話をさせてほしいの……。ね……?」
「帰ってくれませんか」
時雨でもない。悠樹でもない。
「ひぃ姉」
ロビーで待っているはずの氷雨が、肩を大きく上下させ、今、悠樹と時雨の間に割って入っている。
「ひぃ姉の……、言う通り……………………です……」
時雨も、氷雨の後に続く。
深呼吸。悠樹は気持ちを鎮めることに専念する。
姿を見るだけで怒りがこみ上げてくる。それは当然、時雨と氷雨の二人もだ。悠樹だけではない。
「……………………仕方ないわね……」
〇
ため息はつかない。反感を買うから。言ってしまえばここにこうしていること自体、目の前にいる三人を怒らせる理由になっているわけだが。
「帰ってくれませんか」
氷雨、時雨、そして、悠樹。強烈な言葉が返ってくる。こうなるとは想定の範囲内ではあるが、辛いものがある。この状況を作ったのは自分だ。
全ては、自分の責任だ。分かっている。
「分かったわ……………………」
二人の要求を飲むしかない。
〇
「はぁ……はぁ…………………………」
息を整え、睨みつける。苛立ち。一度逃げてしまった自分にも苛立つ。
弱い。強くなったとそう思っていたが間違いだった。自分は弱いままだ。一人では何も出来ない。双子の妹である如くがいるから。姉である悠樹がいるから、自分はこうして発言出来ている。発言する権利を得ている。
「三人に会えてよかったわ。また……、くるから」
(…………………………っ)
「やっと……」
帰ってくれた。逃げた自分に言う資格がないことは理解している。
でも、落ち着ける。
邪魔者が一人消えたのだから。
〇
「大丈夫……………………? ゆぅ姉」
「……………………ん」
三人だけの空間に戻った。力が抜けて、その場に座り込む。
「ひぃも」
「……うん」
タイミングが悪すぎる。
「あの人……………………、また、って……」
今日だけなら、今回だけのことであるなら、まだ切り替えることができた。でも、そうではない。いつ来るか分からない。
(……っっ)
「困ったなぁ……」
「……………………うん」
時雨の言葉に氷雨が頷く。
癪に障る。
来ないでほしい。
悠樹は、時雨は、氷雨は。
(私達は……)
はっきりと、拒否を示した。拒絶した。それなのに、またくるとそう言った。
自分達の行動は意味がなかった。そういうことなのだ。




