在り処 #1
「………………」
時雨は何も喋らない。相手が口を開くのを待っているわけでもない。
(ひぃ姉……)
逃げてしまった。という表現は適切ではないが、間違ってはいない。今目の前にいる女性、それを見て、氷雨は家から出ていってしまった。時雨に、それを止めることは出来なかった。
どういう対応をすればいいのか、時雨には分からない。その上、席を外すことも出来ない。氷雨に早く戻ってきて欲しいが、それは期待できないだろう。家族であり、双子の姉である。それくらいのことは理解しているつもりだ。
(ゆぅ姉は……………………)
何をしているのだろう。メールを送ったのだからもう時期戻ってくるころだろうが。
(はやく……して……)
待てない。耐えられない。この状況に時雨は慣れていない。
「時雨……………………」
自分の名前が呼ばれる。時雨は下に向けていた顔をとりあえず上げるが、相手に目を合わせはしない。
反抗。
「見てほしいな……私を…………」
「い、いや…………………………です」
拒否。
「そんなこと言わずに……見せてよ……」
「…………………………」
反応しない。
嫌だからだ。
一体何をしにきたというのだろうか。連絡もせず、いきなり。
〇
悠樹は一人で戻る。氷雨をおいてけぼりにしてしまっているが、今の氷雨を連れて家に戻るわけにはいかない。まずは悠樹が。自分が。
事を収拾させることが優先事項だ。
(空いてる)
鍵は締められていない。時雨の気も動転しているのだろう。
「ん…………誰」
靴が二足。時雨の分と、知らない人の靴。大人の靴だ。
「いない……………………」
自分達の部屋を開けてみたがそこにはいなかった。
(いれないか)
なら、あとはリビングしかない。
(…………………………)
深呼吸。深呼吸だ。
落ち着いて。自分の立場を考える。悠樹がしっかりしないといけない。
〇
(あ…………………………っ!!)
「ゆぅ姉!!!!!!!!」
帰ってきた。やっとだ。悠樹が戻ってきた。今までぜんぜん気付かなかった。
勢いよく身体を立ち上がらせ、時雨は悠樹の元に向かう。
「ただいま、しぃ」
「うんっ」
思わず抱きついてしまったが、悠樹は受け止めてくれる。離しなどしない。
「悠樹……。氷雨は一緒ではないのね」
(……………………っ)
「なに……いまさら」
「……………………」
悠樹の言葉に答えようとはしない。
「分かってるのよ」
「なに、を………………?」
〇
「三人に迷惑かけたな、って……」
当然だ。言われなくても分かっている。
悠樹が聞きたいのはそんなことではない。
(どうでもいい)
当時は考えたりしたが、今になってはもうどうでもいいことなのだ。こうして、三人で暮らしてきた。悠樹、氷雨、時雨の三人で。
「こ…………な……で…………っっ」
上手く声が出なかった。
「なにかな?」
(この…………っ)
「私達の生活を壊さないでっっっっ!!!!!!!!」
悠樹の感情が爆発した。