Suddenly #3
「どうするの?」
薫は心愛に投げかける。
「そうね」
人混みの中、三人ははぐれないように手を繋ぎ、足を前に進める。
学校から駅へ。今は絶賛夏休み中。そのため、平日でも人がごった返している。
「御崎駅まで、いきましょうか」
「葵の家ってこと?」
「はい」
(久しぶりね)
五月頃の、あの勉強会以来になるのだろうか。もちろん、それから何回も遊んだが、家にまで行く機会はあまりなかった。
(まぁ、今回も、だけどねぇ…………)
話をするだけだ。護についての。心愛は何も言っていないが、単純に考えればそうなるだろう。それならば、場所はどこでもいい。ファミレスでも、学校の部室でも。一番邪魔が入らないのは誰かの家だが。
(どうしようかなぁ)
合宿は終わってしまった。だがそれは、薫にとって痛いことではない。護との旅行はまだある。二人きりになるかどうかはまだ分からないが。
それに、なんてったって、護と一番距離が近いのは。
(あたしだから)
見栄を張っているわけではない。昔から一緒なのだ。一緒に成長してきたのだ。物理的にも、心理的にも、薫が一番近くて当然なのだ。他人に邪魔されるわけにはいかない。そこはハッキリとしないと。
〇
(さてと……)
まずは親に連絡をしないといけない。二人が来ることを伝えないと。
「連絡してきますね」
駅に着き、人が少ない所へ。携帯を取り出し、母親をコールする。
「もしもし。お母さん?」
「葵? もしかして、もう帰ってくるの?」
「うん。今から帰るところ。それでね。心愛と薫も一緒なんだ」
「あー……。ごめん、葵。いまちょっと忙しくて……」
「……? 分かった。ごめんね、お母さん」
「ううん。こっちこそ。それじゃぁまた、帰る時に連絡おねがいね」
「うん」
〇
葵が戻ってくる。
「家、無理みたいです……。ごめんなさい」
「えぇ!? そっか……………………」
「うーん。残念だね……」
久しぶりに行けると思ったが、そう上手くはいかないらしい。
「どうする?」
切符を買ったわけではない。まだ戻ることが可能だ。選択肢は残っている。
「ファミレスはどうかな。涼しいし」
「うん」
「申し訳ないです」
「仕方ないよ。謝らなくても大丈夫」
「そうそう」
話すことが目的である。そのことに意義がある。場所はどこでもいい。




