Suddenly #2
(しかた……ない)
護といたい。咲夜も、杏も、佳奈も、成美も、渚も、葵も、薫も、心愛も、護から離れている。簡単に独り占めできる。だが、悠樹は護を手放した。
「ううっ……………………」
渚は電柱に頭をぶつけてしまったようで、頭を抱えて涙目になっている。
携帯を取り出し、メールを確認する。氷雨と時雨から。さざなみを出た時にもメールが来ていた。無視をしていたから、未読のメールが四件。それぞれ二つずつだ。
(帰らなきゃ……)
護を引き止めていた手を離し、護を自由にしてあげる。
もったいない。折角の時間だというのに。
自分は勝者である。だが、勝者であったとしても、護との時間を疎かにしていいわけではない。危険は常にある。そのことを忘れてはいけない。
「おつかれ……。護」
家に帰るまでが合宿だ。出来ることなら家に呼ぶなり行くなりしたかったが。
(またこんど……)
機会はある。
ないはずがない。
〇
「ゆぅ姉……」
「ただいま」
マンションのロビー。そこで氷雨が待っていた。
(どうして?)
家で待っていればいい。わざわざロビーで待つ必要はどこにもない。
「しぃは?」
「部屋」
「…………家に、戻ろう……?」
こんな所で重要な話なんて出来ない。出入りが多い時間なら尚更だ。
「…………………………ちょっと……」
「ひぃ?」
悠樹の足が止まる。氷雨が手を握り、エレベーターに乗り込もうとした悠樹を引き止めたからだ。
「……………………」
「……………………?」
「もどり……………………たくない…………………………」
「なんで……………………?」
怯えている。氷雨が。こんな氷雨を悠樹は見たことがない。ここ数年絶対に見ることがなかった表情だ。
(何故……………………)
何が理由なのか。メールには詳しいことは書かれていなかった。自分が合宿に行っている間に何かがあったことは明白であるが、それがなんなのか。教えてもらっていないので分からない。
「…………っっ」
「わかった。ひぃはここで待ってて」
「ゆぅ姉……………………」
「ん」
一回、二回。氷雨の頭を撫でる。
戻らないわけにはいかない。時雨がいるのだから。氷雨がこうであるのなら、時雨が大丈夫なわけがない。時雨は一人我慢していることになる。
(いかないと)
自分はお姉ちゃんだ。妹達が困っているのであれば、姉である悠樹が行動しなければならない。
それが、姉としての、そして、家族としての努めだ。