心境変化 #3
心を落ち着かせる。一旦、間を取る。深呼吸。一回、二回、三回。
(よし…………)
「ララのこと、護君は……………………、どう思ってるのかな……?」
これだけで伝わるはずだ。何故なら、護は、もうすでにララからの告白を受けている。想いを知っている。
ランは知りたいのだ。それからしばらく時間が経っている。
本当なら、これは、ララが聞くべきことだ。だが、こうしてランが聞いている。
(……………………)
「言っていいのか……………………?」
伝わっている。ちゃんと理解している。そして、この答えで分かる。護の想いが。
(無理かぁ……………………)
「いや……………………。大丈夫かな。やっぱり」
厳しいなぁ、と、ランは思う。この先ララはどうすればよいのか。何をすれば目的を達成出来るのか。それを考えるのは本人であるが。
「すまんな………………………………」
こうなると、ランの興味は別のものに向く。
「教えてもらえたり……、できるかな? 護君は誰が好きなの………………………………?」
ランが聞いていいものではないかもしれない。知っていいことではないかもしれない。ただ興味がある。ランは、この戦いから身を引いている。知ったところで、ラン本人に影響はない。
(ララは……)
ララは、頑張っている。それを邪魔することはランには出来ない。
(でも)
「すいません。やっぱり……、大丈夫です」
興味がある。それだけだ。それだけ。結果を知ってしまったらつまらない。楽しまないと。応援しないと。それを忘れてはいけない。
「おぅ」
護の横。ソファに座り、外の景色を眺める。眺めるといっても、単純に見ているだけ。暗いし、街灯がそれほどあるわけでもない。
(あぁ…………………………)
明日で終わりだ。ラン達は青春部として参加しているわけではないのでそれほどの残念がる必要はない。ただ、二学期になるまで会える機会が減ってしまうのは寂しいことだ。
もし、こちらから何か提案をすれば、護はそれに乗ってくれるだろう。よほどのことがない限り断ったりはしないはずだ。だが、それは、ランがすることではない。ララがすることだ。そして、他のメンバーがすることだ。余計なこと。邪魔をしてはいけない。
「……………………」
「………………………………」
話すことがなくなってしまった。話したいことがなくなってしまった。
(この辺りで)
この旅行中に護と話すという目的は達成された。一応、ある程度、先の見通しもついた。
なら、この場はこれで終わりにしよう。
〇
「おかえりー。護」
「はい」
一時間くらいだろうか。ようやく、護が戻ってきた。成美の元に返ってきた。長かった。そう思ってしまう。理由はもちろん、護がいなかったからだ。だから
(誰と会っていたのかな)
気になる。護がどこで誰と何をしていたのか。
(でも……………………)
自分には関係ない。
(そう)
関係のないことだ。護が出ていく時もそう自分に言い聞かせた。もう一度。仕方がない。気にしても。
護の布団の上に座って待っていた成美は、自分の場所に移動する。
テレビのチャンネルをつける。
「なにか見たい番組でも?」
「いやー……………………。そういうわけじゃないんだけどねぇ……」
身体は疲れているし、最終日に向けて、はやめに寝ておきたい。だが、寝てしまえば、こうして護と話す時間が減ってしまう。明日になってしまう。
(何かないかなぁ……………………)
この時間帯にどのような番組があるのか。成美はあまり詳しくない。適当にチャンネルを変えていく。
(んー……………………)
どうしようか。面白いと思える番組が見つからなかった。
(仕方ないか……)
粘ったところでどうしようもない。
〇
「あ、おかえりー。ラン」
護との時間を終え、ランは部屋に戻る。目線をテレビに集中力させたまま、ララが声をかけてくれる。真弓はもう布団の中だ。
「うなー……。おかえりぃ……」
起こしてしまったか。目をこすりながら。虚ろな目をしている。
「ただいまです」
真弓と密接に関われるのも、あと少し。青春部の合宿は明日で終わりなのだがら、こそこそついてきている自分達も帰らなければならない。もうやることは残っていない。
「もう寝ちゃうの? ラン」
「そうね」
「そっか」
ララみたいに見たい番組があるわけではない。そもそもあまり見ない方だ。気にならない。
「僕も寝るよ」
うんうん、と、二回頷いたララは、少し寂しそうにテレビの電源を落とす。
「じゃぁ、おやすみだね」
「うん」
今日はこれで終わり。明日はどうしようか。チェックアウト後。問題はそこだ。後を追いかけるわけにもいかない。
(最後だけど……)
そこからは完全フリーとなる。
(まぁ)
起きてから三人で決めればよい。最終日だ。




