心境変化 #1
「おつかれさまー。まもるー」
「ねむいっす」
「あは、あたしもだよ」
ビーチバレーが終わった後も海で散々遊び、風呂に入って、夜ご飯のバイキング。そして、今になる。
三日目ということもあり、なにかこれまでと違うといったことはなくなってきた。それでも楽しい。これだけの人数で来ているのだ。飽きないし、見るものがある。
皆といる時はもちろん、部屋にいる時でも、成美がかなり気をかけてくれる。
女子と二人きり。普通に考えたら、それはおかしいわけだ。一緒の部屋で。だが、青春部は、俺以外全員女の子なわけで、避けられないことである。
嫌だ、という感覚はない。俺だって男だ。
「明日で終わりなんですね」
「そうだねー。あっというまだったよ。本当に」
「はい」
成美と同じ部屋で過ごせる時間もあと少し。これが、薫だったら。悠樹だったら。もう少し気持ちは楽だったかもしれない。
「もう寝る? 護」
テレビのチャンネルを弄りつつ、成美が声を出す。時計を見ると、時計の針は午後十時を指していた。
「そうですねぇ……………………」
まだ寝る時間ではない。それに、ランとの約束がある。昨日はララ。今日はランだ。内緒にしないといけない。
「もしかして、今日もどっか行っちゃう感じかな?」
(……………………っ)
バレている。もちろん、誰と会うかまでは分かっていないだろうが。申しわけない気持ちになってくる。
「んー、別にいいよー。ちゃんと帰ってきてくれたらね」
「はい」
何も聞いてこない。詮索してこない。内緒だから言えないわけだが、詰められることがないのは楽。まぁ、バレてそうな気もするが。
携帯を確認する。準備が出来たらメールをするとランは言っていたが、そのメールはまだ来ていない。
(先にロビーでまっておくか)
〇
「いってらっしゃい」
部屋から出ようとする護の背中に、成美は声をかける。
どんな理由があって、誰と会うのか。聞くことはなかった。知りたくないわけではない。かなり気になる。でも、聞いちゃいけない。昨日と同じだ。
聞く勇気がない、とも言える。
こうして一緒にいる。彼氏でもなんでもないけど、今は同じ部屋で過ごしている。無駄にしてはいけない。初日からずっと思ってきた。
(でもなー……………………)
こういうところが出てしまう。遠慮している場合ではない。自分のことを一番に考えなくてはいけないのに、それが出来ていない。最初からそうだ。
(いやー……)
どうしようか。三日目も終わってしまう。明日は最終日。チェックアウトの時間もあるから、邪魔されることなく護の隣にいれる時間も限られている。
(あはは……)
悩んでいる場合ではない。やるしかない。護が帰ってきてからだ。どれくらいで戻ってくるのか分からないが、準備をしておかなければ。
(終わらせようか)
結果がどうなるか。ここまでの過程はどうだったか。
成美は、護に魅せられてばかりだ。魅せることは出来なかったかもしれない。それならそれで、仕方の無いことだ。もういい。これまでのことはどうでもいい。
結果だ。
結果が全てなのだ。
(……………………)
そう思いながらも、護を見送る成美の顔には、不安の色が浮かんでいた。
〇
「それじゃ行ってくるね。ララ」
「んあ? どこに?」
(はぁ……)
「護君のとこ」
「護のとこ……………………? あぁ、僕が昨日行ったもんね」
「うん」
初日が真弓。昨日がララ。そして、今日はランの番だ。
言いたいことが決まっているわけではない。伝えるべきことはある。迷っている。今するべきなのかどうか。
迷っていたとしても、ランは護に会いにいく。三人で決めたこと。自分だけ行かないという選択肢は生まれない。
「いってらっしゃい」
「なるべく早く帰ってきなさいよ」
真弓からも声がかかる。布団に潜っていたから寝たものだとばかり思っていた。
「はい」
もちろん、そのつもりだ。長く護を拘束する必要はない。むしろ、それはしてはいけないことだ。
護は、青春部として、ここにいる。それはラン達もであるが、わざわざ三人で、皆と来ることを避けてここにいるのだから、抑えていかないといけない。
(そういえば……)
「ねぇ、ララ?」
「んー? 僕に聞きたいことでもあるのかな?」
「護くんの部屋にはいったの?」
「違うよー。成美先輩と同室だし、さすがに行けないよ」
(そう)
「ありがとう」
「いいよー」
連絡は済ませてあるし、護と会うのはロビーだ。メールでもそう伝えてある。ちょっと思っただけだ。部屋に行けるかな、と。
(一人部屋じゃないんだ……………………)
想定内。護をひとりにすることを、他のメンバーが許すわけがない。ただ、そのペアが成美だというのは驚きである。
(薫ちゃんとかは何してるのかな)
もし、薫と同室であるなら、それは納得できる。何も不思議ではない。幼馴染みであるし、違和感ない。もしくは、杏か。リーダーとして、部長として。
ララは、成美先輩としか言わなかった。ということは、護は成美と二人きり。他のメンバーは同じ部屋ではない。そういうことになる。成美だけが勝っている状態。
ランは、今からそれを邪魔しにいくわけである。