勝者の証 #3
人混みを避けるように、悠樹は足を動かす。少ないところに。人が溢れている場所はありあまり好きではない。
(つかれた……………………)
周りの興味を惹きつけてしまっていた。そのせいで、試合にもあまり集中することができなかった。全勝することが出来なかった。優勝も出来ず、薫と杏に取られてしまった。人に見られるのは好きではない。もちろん、護とかは別だ。他の青春部のメンバーも別だ。慣れたら問題ないのだけれど。
足を止め、振り返る。
「護」
今、護の隣にいるのは咲夜である。ペアとして護と一緒にプレイしていた咲夜のことを、悠樹は素直に羨ましいと思う。
(……………………)
落ち着くために深呼吸をする。出来なかったことは仕方ない。そう割り切るしかない。それに、自分はもう護の彼女なのだから、焦る必要はない。勝者だ。もう勝っているのだ。
これから何をしよう。何をすれば、ずっと勝者でいられるのだろう。
「…………?」
視線を感じた。だが、振り返ってみても、人が多すぎて、誰が自分を見ていたのか分からない。
勘違いではないだろう。見られていたのは明らかだ。
(護……?)
護なら分かる。分からないわけがない。ならば、この視線の主は、当然別人ということになる。それに、護はまだ咲夜と話をしている。気になる。
「……………………ん」
戻ろう。
〇
「さてと……」
(そろそろ戻りましょうか)
もう十分遊んだ。護と親睦を深めることが出来たし、ビーチバレーをすることによってストレスの発散も出来た。最初の目的を思い出さないといけない。忘れてはいけない。
「私は戻ります」
咲夜は、護に一声かける。
荷物も置きっぱなしだ。これ以上、放置しておくのは危ないだろう。
「あ、はい。一緒に出来て楽しかったです。咲夜さん」
「ありがとうございます。護様」
人を避けるようにして、咲夜は、自分達が設置したビーチパラソルのとこに戻る。
「悠樹…………………………、様?」
「ん…………」
お見合い。悠樹とぶつかってしまう。こちらは足を止めたが、悠樹が気付いてなかった。
「ごめんな……さい」
「いえ。大丈夫ですよ」
それだけを言うと、悠樹は護のもとに戻っていく。
(ふむ)
あれだけ動いた後だ。疲れているのだろう。咲夜だってそうだ。