表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜五章〜悠樹√〜
285/384

勝者の証 #1

 「頑張りましょう、心愛」


 葵からハイタッチを求められる。心愛は、心地よくそれに応える。


 目指すは全勝。もちろん、目当てなものがあるからだ。おそらくそれは、全てに勝った者のみに与えられるもの。自分達のペアが勝てば、心愛と葵がその権利を得ることになる。


 「はいっ!」


 一人であるならもっといいわけであるが、ペアを組んでいる以上、独占することは出来ない。出来たとしても、了承を得ることが必要となってくる。


 「負けない」


 隣にいた悠樹が佳奈を連れてやってくる。


 「私達こそ負けませんよ」


 葵の発言に、心愛は心の中で頷く。


 「ん」


 それだけだった。それだけのやり取りで、悠樹は護の所にいってしまう。


 「勝てるか不安だ」

 「どうして、ですか?」


 心愛の視線は悠樹を追いかけている。話を続けるのは葵だ。



 「得意ではないから、だな」


 簡潔に、佳奈は答える。


 それだけのこと。自分が足を引っ張ってしまう可能性がある。苦手、というわけでもないが、このメンバーの中で勝てるほどの自信があるわけではない。そうなると、悠樹に頼るしかない。最低限、勝利に繋がることをする。


 「そうなんですか……………………」

 「あぁ」

 「同じ、ですね……。私も、あまり、というか、運動が得意ではないですし」

 「そうだったな」


 こちらも同じ。ペアを組む相手は、心愛だ。葵も考えていることは同じだろう。


 「ベストをつくしましょう」

 「もちろんだ」


 それは当然のこと。



 「どうされましたか? 悠樹様」

 「……………………」

 「…………」


 咲夜を見、護を見る。ペアを組むのなら、当然自分であると思っていた。勝者である自分がペアを組むべきだと思っていた。だが、違うかった。咲夜の案によって、護をはそのまま咲夜に取られてしまった。


 なんてことだ。


 「なにもない」


 護と一緒に、なんてことを咲夜が考えていたとは思えない。たまたま。素早くペアを決めるためにした行動なのだろう。その意見に賛成はしたものの、良しとは思っていない。護と一緒に出来ないのだから。


 「そうですか」

 「勝つ」


 それだけを伝えておく。負けるつもりはない。護のチームにも、ほかのチームにも。


 勝たなければならない。


 負けることは許されない。


 そのために何をすればよいか。


 (簡単)


 勝つためのことをすればよい。本気を出せばよい。勝者の意地を。


 「そろそろやるよーっ!」


 杏から声がかかる。


 (ん)



 「どのペアからやるーっ?」


 声を上げるのは、杏だ。いつも通り。


 (一番最初にはしたくないよね)


 はやくやりたいという気持ちはあるものの、ここは勝たなくてはいけない。そのためには、皆の力を見なければならない。これまでこの青春部のメンバーでこういうことをやってこなかったから、いまいち把握出来ていない。だから、ここでやらなくてはいけない。


 (風もあるし)


 雨上がりというのもあるだろうし、風が少し強い。


 無論、ビーチバレーを杏はしたことがない。室内で行われるバレーすら、授業でやったことがある程度だ。自分でも自分の技量に期待はしていない。薫に任せる。


 「やる」


 悠樹から声があがる。


 ここでペアの整理をしよう。悠樹のペアは佳奈。杏は薫と同じ。加えて、渚と成美、心愛と葵、護と咲夜、だ。


 (それなら勝てるのかなー)


 幼馴染みだから、昔から付き合いがあるから、佳奈がどれほど出来るのかを知っている。勝てる可能性は高い。悠樹次第ではあるけども。


 「なら、私達も」

 「咲夜さん!?」


 護が驚きの声を上げている。


 「最初に、やるんですか!?」

 「問題ありますか? 護様」

 「いや……………………」


 こちらとしても、問題はない。自分達が最初でなければ他の順番などどうでもいい。逆に、護がどれほど出来るのかを見れるのだから都合がいい。薫と同等か、どうか。分かれば戦術も立てやすくなる。


 「ならやりましょう。いつやっても、最終的に試合をする回数は変わらないのですから」



 (護と)


 一回目から護と咲夜のペアとやることになった。引っ張っているのは咲夜。


 「佳奈」

 「どうした?」

 「咲夜さんは、強い?」

 「そうだろう。私と同じでやったことはないだろうが、咲夜はなんでもこなすタイプだからな」

 「わかった」


 二つのことが分かった。佳奈も咲夜も、ビーチバレーをしたことがないということが。悠樹もしたことがない。おそらく、護もだろう。あるのは通常のバレー。


 「準備はいいーっ?」

 「問題ない」


(始まる)



 「ルールの確認だけどー、十点先取ねー。本当はもっとあるけど、時間かかっちゃうから」


 何点だったか俺は覚えてないが、短い方が効率が良い。そんなちゃんとしたルールでやっていたら体力が持たない。慣れてないのもあるし、暑い。熱中症などのものは避けていかないといけない。


 「はい、護様。サーブをお願いします」

 「分かりました」


 咲夜さんからボールを受け取る。


 「護様。風が強いですから、そのあたり気をつけてくださいね」


 頷く。どうなるかは分からない。やってみないと。


 「じゃぁ、いきますよー!」


 相手のコート。佳奈が前にいて悠樹が後ろ。俺のサーブを受け取るのは悠樹だ。

 慣れるために、下から打ち上げる感じでサーブをする。弧を描くようにして、多少風に揺られながらも悠樹がいる場所に飛んでいく。

 「……………………っ」

 (おっと)

 俺もだが、悠樹も力加減が分かっていないようで、悠樹からのレシーブ一回でこちらのコートまで戻ってきた。悠樹達からみて追い風だから、というのも影響しているだろう。ギリギリの位置で返ってきたので、咲夜さんも一回で向こうに。俺は少しだけ前進する。



 (また)

 佳奈の頭上を超え、またしても自分のところにやってくる。今度動かないといけない。少し前へ。風の影響も計算する。きちんと佳奈に繋げる。

 「佳奈」

 声を掛け、佳奈がアタックしやすいだろう位置にボールを送り込む。

 「了解だ」

 咲夜はブロックする気がないのか、レシーブで佳奈のアタックを受ける気だ。そして、護がいつでもカバー出来る位置にいる。

 「…………おっと」

 佳奈がアタックをするも、風の影響を受けふわふわと、咲夜のレシーブ範囲を超え、護の場所へ。

 「行きますよー、咲夜さん」

 「はい」



 (いきます)

 狙いは悠樹。

 護からのレシーブは完璧。前進している護にアタックをしてもらうのもあり。自分でアタックするのもあり。咲夜が選ぶのはもちろん後者。大人として、出来るところを見せないといけない。

 踏み込んでジャンプする。

 (……?)

 砂浜という普段慣れていない地形。そして、裸足。上手く跳ね上がることが出来ず。

 「あっ……………………」

 指先が触れる。これではアタックにならない。力が入らない。

 「……………………」

 力ないふわふわとしたボールは風に流され、コート外に落ちる。あと少し左にズレていてくれれば問題なかったのに。

 (いや)

 風のせいにするのはよくない。そこまで計算しなけらばならない。それが、ビーチボールというものであろう。忘れてはいけない。

 一対〇。

 「申し訳ないです。護様」

 「いえ、大丈夫ですよ。咲夜さん。まだ始まったばっかりですし、ここから頑張っていきましょう」

 咲夜のミスで一点を失う。護の言う通り序盤であり、まだ点数を気にする段階ではない。

 砂浜の感触を確かめる。失敗してはいけないから。同じミスは許されない。

 「気を取り直していきましょう。咲夜さん」

 「はい。護様」

 この程度のことで落ち込んでいてはいけない。ここからだ。ここから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ