曇りのち #6
(なんで……)
取られてしまった。自分が取らなかったからだ。空いている。悠樹に、そう思わせてしまった。空いていることに間違いはないが。
「分かった」
思わず、悠樹に声をかけてしまっていた。無意識。自分で手を握らないという選択肢を選んだのに、もう揺らいでしまっている。
(弱いなぁ……………………)
ブレずに行動することが大切だ。他者の影響を受けず自分の想いだけに従って行動することが出来れば、どれだけ楽だろう。考えてしまう。
「全員、ちゃんといるよね」
杏達も海から上がってきたようで、咲夜を除く全員が砂浜の上に集まる。
九人。咲夜を入れれば十人になる。いつの間に、という感じだが、思えば、元からこうだった。薫や葵と決めて、護を引き込んだ。
入った時点で、こうなることは容易に予想出来た。三人だったら確実というわけでもないが、勝ちを得ることがより難しくなってしまっている状態だ。
「したいこと、ある?」
杏が皆に聞いてくる。敢えて意見を聞こうとしている。自分を抑えるつもりでいるのか、聞いた上で貫き通すつもりでいるのかは、心愛には分からない。
「なんでも」
悠樹はいつも通りだ。気が付いたら護の横にいるのも変わってない。
(まぁ)
心愛も悠樹と同じだ。とりあえず、海に来るという目的は達成された。もちろんそれだけではないが、その先のことは誰の手も借りるつもりはない。自分自身で決めていく。
「護は?」
「ビーチバレーとかはどうですか」
「いいねー、護」
身体を動かせるのは良いことだ。だが、問題がある。
「場所あるか? 杏」
「うーん。そこだよねぇ。やっぱり……」
「スペースが狭くてもいいなら問題ないが」
「悩むねぇ…………………………」
佳奈の言う通りだ。貸し切りではない。だから、ここは自分達のスペース、という部分が存在しない。ビーチバレーをするにはスペースがいる。人が少ないところを狙ったがそれでも多い。
「ありますよ。場所は」
「葵? どこにあるの?」
「あそこです」
葵の言う通り、百メートルほど離れた先にあった。ただの見逃し。きちんと、ビーチバレーができるスペースが用意されている。
「なんだ。これなら問題ないね」
「はい」
スペースの問題はあっさり解決した。
(よかったよかった)
「今からやるのか?」
「その方がいいんじゃない? 今ちょうど誰も使ってないみたいだし」
近くに海の家があるため人が集まっているようには見えるが、杏が言うように、そのスペースは今使われていない。
今がチャンス。
〇
「咲夜さん」
「……………………どうかしましたか?」
読書中。急に声をかけられる。杏の声だ。顔をあげると、杏だけではなく全員が戻ってきていた。
「ビーチバレーしようという話になってな」
「ビーチバレー、ですか?」
(それはまた)
ここでしか出来ないことだ。良いことだと思う。
「あぁ、そうだ。それでだ」
「私も、ということですね」
「そういうこと」
(そうですねぇ……………………)
荷物がある。取られるかもしれないという可能性を考えると、もちろん、ここを離れることは出来ない。だが、それは、皆も分かっているはずである。
(まぁ…………………………)
「分かりました。このままでもつまらないですからね」
「やった。ありがとう。咲夜さん」
「いえいえ」
(少しくらいなら)
〇
(出来るかなぁ……)
渚の足は少し重い。運動が苦手だから。足を引っ張ってしまうから。自分だけ見学、とはいかないだろう。全員で楽しむことが求められるのだから、その輪から外れることは許されない。
「どうかした?」
「もぅ、お姉ちゃんなら分るでしょ?」
「あー、まぁねぇ……」
(頑張ろ……)
結論は出ている。楽しめばいい。自分でそういった。なら、それを実行するまでだ。得手不得手は関係ない。
そう思うことが大切だ。
〇
(どういうチーム分けにしようかな)
基本人数は二人。色んなペアを組んでやってみたい。護とも同じチームでやってみたい。だが、それが出来るほどの時間があるかどうか。貸し切りではない。他者も利用する。青春部で占領することは出来ない。
遊びだから、二人という縛りを無くすのはありだ。むしろ、そうしたほうがいいかもしれない。
「杏」
「なに?」
「ペアをつくるのか?」
「どうしようかなって。全員で十人だから、それでもいいんだけどね」
護、杏、心愛、葵、薫、悠樹、渚、成美、佳奈、咲夜。ちょうど五ペアができる。四人でチームを組むと、二人余る。
「それがいいと思います」
「護もそう思う?」
「えぇ」
護とペアを組める確率は低くなってしまうが、もし護を引き当てることが出来たら、濃密な時間を味わえる。
どちらを選ぶべきか。
簡単だ。




