曇りのち #5
「戻ってきた……」
心愛が、護を連れて戻ってきた。ビーチパラソルの設営も終わったようで、葵と佳奈も一緒にやってくる。
(あ……)
咲夜と目が合った。手を振って、笑顔で成美は咲夜に応える。待っているばかりではつまらない。そういう立場であるとしても、さすがにそれだけでは。後で誘おう。
「おつかれー。護」
「いえ」
「葵も」
「はい」
(あっついねぇ)
海からあがり、身体を伸ばす。浮かんだり泳いだりしていればまだマシではあるものの、一度上がってしまえば暑さが戻ってくる。
「よいっしょ…………っと……」
久しぶりの海だ。しっかりやっていきたい。
(んー……………………)
ちょっとずつ人が集まってきている。有名どころだから仕方ない。そういう状況の中で、どうやって、護とやっていくか。
難しい。当然、今から出来ることではない。皆が見ている。だかそれは、後からでも同じ事だ。自然に、護を連れ出さないといけない。
どこに?
(それは秘密かなー)
〇
護の隣に葵がいる。そして、その隣に心愛。もちろん、この位置では満足できない。いつも通り、護の隣に移動する。
(手は…………)
左手は葵と繋がれているけれど、もう片方は空いている。
(落ち着かなきゃ……)
焦ってはいけない。慎重に。勝負をかけないといけない頃合ではあるが、焦りが生むものに良いものはない。悪影響しか与えないだろう。
(ふぅ)
心愛は、護の手を握らない、という選択肢を選ぶ。この後のことを考えて。
「心愛? どうかしたんですか?」
「なんでもないよ」
なんだろう。いつも気付かれそうになってしまう。態度に出やすく、声にも出やすい。きちんと自覚はしているけれど。昔からそう。嘘をつくのも苦手だ。つかれるのも嫌い。真っ直ぐでいたいと、そう思っている。
(出来ているかな)
護には、どう映っているだろうか。護に聞いてみないと分からない。自分の評価と相手からの評価。そこには違いがあるもので。
「ね、護」
「なんだ?」
「やっぱりいい」
「…………おっけ」
(いつにしようかな……)
今、とはいかない。二人の時が良い。邪魔が入らないから、個人的にはその方が話しやすい。こういう場だと内容は筒抜けであるし、横から何を言われるか分からない。
別に、それが悪いということでは決してない。言ってしまえば、二人で話したい。それだけなのだ。
時間を作らないと。二人だけの時間を。早めが良い。難しいかもしれないが、この合宿中には終わらせたい。どうにかしないといけない。
(はぁ……)
〇
(ん……………………?)
浮き輪に身を任せぷかぷかと。気が付かば、皆と離れた場所に。少し流されてしまった。
「……………………戻る」
すぐに戻れる。幸いにも、まだそんなに砂浜からは離れていない。いくら悠樹が泳げなかったとしても、浮き輪もある。問題ない。
護を視界に捉える。ビーチパラソルの設営は終わったようだ。完成したビーチパラソルの中には咲夜しかおらず、葵と心愛が護を囲んでいる。
「とらないで」
そこは、悠樹の場所だ。勝負に勝った悠樹の場所だ。悠樹がいるべき場所だ。
(勝った)
もう決まったこと。事実。ここからの敗北は有り得ない。それは、裏切りに繋がることだ。そんなこと考えられない。悠樹は決してそんなことをしないし、護もしない。
ということは、こうしてその自分の居場所が取られているからといって、慌てる必要はないのかもしれない。それなのにこういう感情が湧いてしまう。ない、と思っていても、出てきてしまう。
(……?)
仕方の無いこと、なのであろうか。
(違う、はず)
自分の想いが足りていないのだ。弱いのだ。護に対しての愛が。満足していていけない。常に進まないといけない。追いつかれてしまう。
〇
「あれ……………………?」
見当たらない。
「どしたの? 護」
「悠樹どこにいる?」
心愛と葵は俺の隣にいる。成美と杏は海に入ってはしゃいでいるし、渚と薫は砂で白を作って遊んでいて、佳奈はそれを笑顔で見守っている。悠樹だけが、その輪に入っていない。
「いるじゃないですか。護君」
葵に腕を引っ張られ視界が移動する。
「いた」
丁度上がったところなのだろう。右手に浮き輪を持ち、こっちに向かって歩いてくる悠樹がいた。
皆のところにはいなかっただけ。それだけのことで、ちょっと慌ててしまった。何も、固まって行動する必要はないのに。考え方がよくなかった。
「お疲れ。護」
「いえいえ」
「私も、手伝えばよかった?」
「大丈夫でしたよ。そんなに人数もいらなかったですし」
「ん。片付けの時は手伝う」
「ありがとうございます」
その時は全員が手伝ってくれそうな気もする。俺は必要ない? 結局、最後は重労働になるから持たなくてはならないんだけども。
「遊ぼ? 護」
(あ……………………)
「はい」
空いていた手。そこが悠樹に取られる。心愛が少しだけ追いやられる。
「悠樹、先輩?」
「…………………………なに?」
「別にいいです……」




