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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜五章〜悠樹√〜
279/384

曇りのち #2

 「うひゃー……………………」

 「これは……………………」

 「残念すぎるよー……………………」


 三日目。カーテンを開けると、残念な光景が目に入ってきた。雨。強く降っているわけではないが、確実に、雨が降っている。外に出ることを拒まれている。どうしよう。


 「どうする?」


 カーテンを開けたまま、真弓は二人に声をかける。ララが露骨だ。露骨に、テンションが下がっている。ランも同じだ。悲しそうだ。


 「んーーーー…………………………………………」


 雨が降っても降らなくてもバレないように動かないといけないのだから行動は制限されてしまうわけだが、だからといって、降っていても問題ない、という風にはならない。より、その範囲が狭くなってしまう。


 (三日目だよぅ、今日……)


 あまり時間は残されていない。真弓とララの目的はある程度達成されているわけだが、ランはまだである。今日の予定。もし、一日中雨が降るようなことがあったら、天気が良くならないなんてことがあってしまったら、その予定は崩れてしまう。


 「昼まで……、みたい…………です」

 「ん? 昼からは止むの?」

 「そう……ですね。予報ではそうです」

 「ほんとに!?」


 ピンッ。いつも通りのララに戻る。


 分かりやすい。真弓的には、その方が楽だ。気持ちが分かるほうがいい。簡単になる。それを見て、その先のことを考えることができる。ここでは、真弓が一番上だ。予定していなかったことが起きた時、考えて、引っ張っていかないといけない。真弓の役割。


 「なら、昼からは大丈夫そうだね」

 「それまでどうするか、だねー。真弓先輩」

 「うんうん。そうだね」

 「何か……、することあるかな……」


 ランの言葉は最もだ。基本的に、外には出ていない。部屋で、テレビを見たり、トランプをしたり。出来ることは、色々やり尽くしてしまった感じはある。


 「やっぱり不便だねー……」


 青春部として参加していれば、もっと関わりを持てた。このような時でも、今みたいな感情は出てこなかっただろう。


 「はい……………………」

 「真弓先輩、ラン。それは言わない約束だよー。」


 僕は楽しむよー、この状況も。ララが言葉を付け足す。


 その声色。無理に、というわけではない。ちゃんと、楽しもうと、この雨も利用しようとしている。


 「だね」


 その通りではある。


 こんな時間でも大切なものである。ララのように前向きに思えば、なんとでもなる。




 「あ……………………」


 (晴れてきましたね)


 三時間、四時間前はどんよりとして雨降り模様だった空にだんだんと晴れ間が見えてくる。この調子だと、後三十分くらいで完全に晴れることになるだろう。


 「良かったね。葵ちゃん」

 「はい」


 晴れたといっても、すぐに海に入れるわけではない。時間をおかないといけない。


 葵自身はどちらでもいいわけではあるが、場所が場所である。そっちに思いが傾いていないとしても、やはり、もったいないという感覚はある。入らないわけにもいかない。


 (まぁ、護君もいますし)


 当然、護の影響はある。 だから、入ってみてもいいかな、と思える。


 プールや海。不特定多数の前。青春部の皆の前だけ、とはいかない。見ず知らずの人の前で。さすがに抵抗がある。


 「葵ちゃんは、護君に選んでもらった水着、持ってきてるかな?」

 「はい。もちろん」

 「だよねー。せっかく選んでもらったものだし」


 あの時新調した水着。護が葵のために選んでくれた水着。きちんと持ってきている。忘れるわけがない。


 (着ないといけませんね)


 前向きに。護が見てくれる。そう考えればいい。そう考える方がいいに決まっている。この旅行も、この旅館にいれるのも、あと一日。三日目をむかえている。


 後ろ向きな考えは、捨てていかないといけない。



 「ん」


 待ちくたびれた。天気予報通り、晴れてきた。さっきまでの雨雲はどこへやら。気がつけば、青空一面。絶好の海日和に変わっていた。


 「ふぅ…………………………………………。ようやくだな」

 「あ、杏先輩からメールです」


 青春部全員に一斉送信。その内容は、もちろんこの後の海のこと。皆が待ちわびていることだ。


 (準備)


 「出来次第、ロビーに集合だな」


 護が選んでくれた水着に着替えるだけだ。その他にすることなんてない。それだけ。


 「悠樹先輩は、何か持ってきましたか?」


 モゾモゾ。鞄を漁りながら薫が声をかけてくる。


 「何も。水着だけ」

 「浮き輪とか、ビーチボールとかは」

 「持ってきていない」


 (いる……?)


 悠樹が持ってくる必要はない。何故なら、そういうのを準備する性格ではないからだ。そして、青春部には、それに適した人物がいる。杏や成美がいる。わざわざ、悠樹がする必要はない。


 「薫は持ってきたのか?」


 悠樹の後ろから佳奈の声。


 「あぁ…………。持ってきてないんですよね……。誰か持ってきてますよね……」

 「当然だろう。杏が持ってきているさ」

 「ですよね」



 「あっつ……………………」


 さっきまで雨が降っていたのだから、少しは涼しいかと期待していたのだが、そんなことは全くなく、体感的には逆に昨日よりも暑いような、そんな気さえする。


 「本当にもう………………」


 杏の隣、咲夜もため息をついている。起きて雨だと知った時、かなりびっくりしたもんだ。本当に。それが、ここまで晴れてしまうのだ。あんな思いをする必要があっただろうか。悲しい。


 「まぁ、いいじゃないか」

 「そうだけど………………」


 左に立つのは佳奈。佳奈の右手は、ポンっと、杏の肩に置かれている。


 この間、佳奈は何をしたいたのだろうか。部屋を覗いたりはしていなかった。これからのことを、ずっと考えていた。何をするか。雨の後ということを、少しだけ考慮しないといけなかったからだ。予定は、ちょっとだけ変更だ。


 「んー………………。すぅ……はぁ……………………」


 深呼吸。深呼吸。


 ここからが三日目だ。ちゃんとした三日目の始まりだ。納得のいくような、満足が出来る結果にしたい。杏だけではない。もちろん、皆が、思っていること。もう迷わない。取り合いになってもいい。終わりにしよう。本当に。ここを最後にしよう。


 ……覚悟しなさいよ……。


 護に対しての言葉だ。そして、護のことを好きでいる皆に向かっての言葉だ。


 「じゃぁ、いっくよー。海だよー」


 掛け声を。杏の役割。引っ張っていく。忘れてはいけないことだ。



 杏先輩が前を歩く。


 もう慣れていることだ。むしろ、杏先輩が前に出ていることに安心感を覚える。いつもの杏先輩だな、と。


 青春部の部長は杏先輩。部長なのだから当然といえば当然なのだろうが、メンバーの中には佳奈がいる。佳奈は、生徒会長だ。佳奈が引っ張ってもいいものなのに、佳奈はその役目をしたりはしない。杏先輩がいたら必ず杏先輩がやっている。


 「あっついねー。護」

 「あぁ」

 「さっきまで雨だったのに」

 「それな」


 びっくりするほどに。晴れてからも少しだけ待機をしていた。砂浜とか色々あったから。そして、ロビーにゾロゾロ人が集まり出したのを、皆が海に向かい始めたのを確認してから、俺達もこうして出てきている。


 「晴れてよかったよな。心愛」

 「うん。こんなに暑くなくてもいいけど」

 「でも、海入るんだから、これくらいがちょうどいいんじゃないか?」

 「んー、そうかな? あたし、砂浜が熱いの、嫌いなのよね」

 「そこかよ」


 素足で踏もうものならそれはもう飛び上がるほど熱い時もある。サンダルを履いていたとしても、隙間から砂が侵入してしまったりすることもある。心愛の気持ちはよく分かる。結局のところ、砂浜そのものが面倒くさかったりするが。


 「ちゃんと持ってきてるから」

 「ん?」

 「あんたが選んでくれた水着に決まってるでしょ? それ以外に、何があるのよ」

 「あぁ……。そのことか」

 「うん」


 持ってきてるから、というよりかはもう身につけているわけだが。今、青春部の皆が着ている水着はもちろん、俺が選んだやつである。


 こういうことを見据えて買ったのであろうから、ここで着ないという選択肢は出てこないだろう。


 本当ならここに真弓も、と思うのだが、ララとランも合わせてバレてはいけないように行動しないといけないから仕方がない。


 (暇、だろうなぁ……)


 まぁ、最初から思っているわけだが。こちらがこうして外に出てしまえば、真弓達は外出することができない。鉢合ってしまう。だからといって、旅館内で、何か出来るわけではない。


 「護様? 考え事ですか?」

 「いえ」

 「そうですか」


 咲夜さんは水着を来ていない。執事の服。泳ぐつもりはないのだろうか。


 「水着……、着ないんですか?」

 「私は傍観者ですからね。それに、あまり泳ぐのは得意ではないので」

 「え? そうなんですか?」

 「はい」


 なんてこった。咲夜さんって泳げなかったのね。そういうイメージは、当然全くない。泳げるものだと思っていた。何でも出来る。というか、青春部の皆には、何でもこなせそう、というイメージがつきまとう。ちょっと足りなかったりもするが、ある程度はいける。


 「教えたことはあったりしたんだがな」


 後ろから佳奈の声が飛んでくる。


 「懐かしいですね。佳奈お嬢様」

 「あぁ。そうだな」


 教えても上達しなかった。これが勉強などであれば、教え方が悪かった、そもそも理解する気がない、だとか色々あったりするが、水泳、となるとまた別だろう。


 水が怖い。そういう場合だってある。こればっかりは、教え方などではなく、慣れていくしかない。そういう状況にはなかったのだろう。ましてや、咲夜さんは特別である。時間もなかった可能性もある。聞きはしないが。


 「泳げるようになりたい、とは思いますが」

 「今、やろうよ! 咲夜さん」

 「そうしたいのは山々ですが……、私、そもそも水着を持ってきておりませんので」


 あーそれは残念。あわよくば、と少し思ったりもしたが。


 「まぁ、どうでもいいことです。繰り返しますが、私は傍観者であり保護者ですから」


 二回目。保護者を付け足す咲夜さん。


 間違いない。このメンバーの中で唯一の大人であり、もし、何か起きてしまったら、責任を取ることになるのは咲夜さんだ。杏先輩の可能性もあるが、監督不行届。咲夜さんになってしまう。


 あまり羽目を外すことはできない。最低限。俺らは気にしなくてもいいことなのかもしれない。

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