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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜五章〜悠樹√〜
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曇りのち #1


  「雨降りそうだな……」


 昨日、夜遅くまで起きていたわけだが、寝過ごすことはなかった。成美より先に起きている。


 「……………………ん」


 というか、そこは置いておいて。問題は天気だ。晴れていない。窓から見えるその空は、昨日や一昨日の清々しいほどまでの青空などではなく、ところどころに、灰色の雲が見えている。


 もし、雨が降ってきたら? 俺には分からない。出発前に一応天気予報を見ていたが、雨マークはついていなかったように思える。皆、雨が降るとは思っていないだろう。だって、まだ海に入っていない。


 もしかしたら、入れない、という可能性が出てきてしまった。想定外。旅館でのんびりする、というのが悪いわけではないが、漣に来ている以上、目の前に海が広がっているのだから、やっぱり、もったいない。一度は入っておきたいと思う。


 「ん……………………っ。ま……護?」

 「おはようございます」


 まだ眠そう。俺だってそう。六時過ぎ。五時間ほどの睡眠時間だった。


 「まだ寝てても大丈夫ですよ。俺が起こしますから」


 朝ご飯のバイキングまで、あと一時間くらいある。まだ寝れる。


 「……分かった…………。じゃぁ……頼むね……?」

 「了解しました」


 成美の声が聞こえなくなる。俺は寝ないようにしないと。俺が寝てしまったら笑えない。でも、成美の寝顔を見ていたら寝てしまいそうだ。


 「暇だな」


 何かすることがあるわけではない。テレビを見るにしても、まだ朝早いし、成美がまた起きてしまう可能性がある。


 (外でるか……………)


 外といっても、部屋の外。旅館外に出るつもりはまったくない。



 「あぁ……………………、これはこれは……」


 一番に目を覚ます。咲夜だ。ロビー。ソファに腰掛けながら、その入口から外を眺める。


 どんより、というほどではないが、雨が降る確率が高そうな空模様。残念。


 「どうしましょうか……………………」


 心愛が海に入りたいと言っていた。雨が降ってしまったらそうも行かなくなる。杏もそれを認めていた。


 「仕方ないですね」


 何をするか。考えるのは咲夜の仕事ではない。杏の仕事だ。咲夜は見守る側だ。こちらから指示を出す必要はない。支えることだけでいい。


 「咲夜さん?」

 「護様ではないですか」

 「おはようございます」

 「はい。おはようございます」


 背後から回り込むようにして隣にくる護。


 「残念ですね。この天気は」

 「ですねぇ……………………………………」


 どうなるだろう。今日は三日目。まだ最終日が残っている。だが、最後。忙しくなるだろう。海、なんてものにかまけている時間はないと思われる。


 「あ……………………」


 護と一緒に空を眺めて、どれくらいの時間が経っただろうか。だんだんと雨雲はその色を増していき、ついに。


 「ふってきた……………………」


 ポツポツ。目に見える程度の雨が降ってきてしまった。残念。


 「護様? 天気予報、見てもらえますか?」

 「分かりました」


 携帯を部屋に置いてきてしまった。この先の天気を確認する手段を、咲夜は持っていない。護に聞くしかない。


 「んー…………。昼には、って感じですかね」

 「ありがとうございます」


 おそらく、もう、杏は起きているだろう。そして、今の咲夜と護みたいに落ち込んでいる。


 (いや)


 杏のことだ。もう次のことを考えているだろう。くよくよ。引きずらないタイプだ。咲夜はそういう風に見ている。杏のことを。


 「戻りましょうか」

 「ですね」


 ここにいても仕方ない。見ていても雨が止むわけではない。



 「雨だ…………………………………………本当に……………………?」


 自分の声がいつもより弱々しいことに、杏は気付く。上手く出ない。理由は簡単。雨が降っているからだ。自分の予定が崩れてしまいそうだからだ。


 「どうしよう……」


 悩んでる暇はない。現実は、雨。変わらない。悩んだところで変わらない。いつもの、いつも通りの杏なら。


 「心愛はまだ寝てる……。咲夜さんはいないし……」


 こんなに不安に思うことはなかっただろう。すぐに、次の案を考えることができた。そして、それを行動に移すことができた。全く出来ていない。


 (おかしい……)


 昨日までの自分なら。なんか違う。杏は分かっている。自分がおかしいことくらい。


 「咲夜さん、はやく…………………」


 帰ってきて欲しい。意見をほしい。どうしたらいいのか。杏に、それを教えて欲しい。自分では決められない。決める力を失ってしましょう。


 ガチャ。


 「咲夜さん……っ!!!!!!」

 「き、杏様……!!??」


 身体が無意識に動いてしまっていた。咲夜に抱きついてしまっていた、


 「どうかしましたか?」


 咲夜はいつも通りだ。想定外なことが起こっている今も。


 「杏様がそれではダメです。いつもみたいに、皆を引っ張ってくださらないと」

 「分かってる……。分かってるんですけど……。急に、怖くなって……………………」

 「怖い………………………ですか?」

 「はい……」


 もうこれは、自分でも分からない。


 急に陥ってしまった。感情に支配されてしまった。自然には逆らえない。そこまでは、さすがに杏の力は及ばない。そこを考慮して、予定を立てないといけない。それが出来ていなかった。


 「一緒に考えましょう」

 「……………………」

 「何も、今日一日中、雨が降る、というわけではないのですから」

 「え……………………? そうなんですか?」

 「えぇ」

 「なんだ……………………」


 (びっくりした……)


 なら、あまり問題はない。数時間のズレは生じるものの、丸ごと予定が合わなくなるわけではない。そのズレを解消できるように、動けばいいだけである。


 「落ち着きましたか?」

 「はい」


 深呼吸をする。


 (ふぅ……)


 早とちり、早とちり。いけない。もっと慎重にならないと。いつも通りの杏でいないといけない。リーダーとして、先頭に立っていないといけない。


 「さぁ! 時間だね」


 七時になった。三日目の始まりだ。



 「おかえり、護」


 俺が部屋に戻ってくると、すぐに成美が声をかけてくれる。


 「起きていたんですね」


 まぁ、もうすぐ七時だ。アラームをかけていたが、七時になったら、俺が起こすつもりでいた。その手間が省けた。


 「うん…………」


 なんか元気がない? 気のせいか?


 「雨なんだね……。今日」

 「あぁ……………………」


 さっきの俺と同じように、成美はカーテンを開けて外を見ている。


 「でも、昼には止むそうですよ」

 「そうなんだ」

 「朝は何も出来ないんだ……………………」

 「まぁ、そうですね」


 杏先輩が何を予定していたかは知らないが、外出の予定があったりしたら、それは全て昼からになってしまう。だが、これも予定だ。予報だから、もちろん外れる可能性もある。雨が止まないかもしれない。そうなった時、どうするのか。


 (まぁ、いいか)


 今頃、杏先輩は考えている頃だと思う。


 「三日目で降っちゃうかー……………………」


 昨日がよかったなー。成美はそう付け足した。


 「降らないにこしたことはないですけどね」

 「それは、ね」


 心愛が海に行きたいとか言っていたような気もするし、今日降るよりかは昨日、という思いになるのは分かる。


 予定が崩れてしまうのは面倒だ。


 「どうする? 護」

 「何がですか?」

 「お昼まで、何がしたい?」

 「別に、何か特別にしたいことはないですよ?」

 「おっけー」


 いつも通りの返事を、俺は成美に返す。最近こういうことが増えてきてしまっているような気がする。自分の主張というか、他人任せ。その方が楽ではある。自分で決めるよりかははるかに。



 朝ご飯の時、杏先輩から連絡があった。雨だから、止むまでは自由に、という通達。思っていた通りである。


 海。雨が降った後の海に入るのは少し遠慮したくなるが、時間がないから仕方がない。ここしかない。


 まぁ、それほど降っているわけではない。それほど影響はないと思いたい。楽しみにしていたわけだし。入らない。そういう選択肢は取りたくない。


 「あー……………………」


 部屋に戻るとすぐに、隣にいる成美が寂しそうに息をもらす。


 「後二回かぁ……………………」

 「何がですか?」

 「ここのご飯を食べられるの」

 「あぁ」


 (それもそうか)


 もう三日目。今日の夜と明日の朝。昼前にはチェックアウトだから、それだけ。この旅館にいれる時間も、だんだんと短くなってきた。あっという間だ。


 「昨日の続きをするからねー」

 「はい」


 浴衣の話。昨日は時間も時間だったので、選ぶだけにした。あの場所には戻らない。この部屋のクローゼットにしまってある。俺は、あまり見ていない。三人がどういったものを選んだのかを。


 「楽しみにしてて」

 「はい」



 「やっぱりお昼からかぁ……………………」


 天気予報を携帯で確認してみた。今においても降水確率は三十%ほど。十二時頃には十%。雨雲の予報を見ても、このさざなみ周辺から雨雲が消えてなくなるのは、丁度十二時頃からである。


 「テレビでもそのように言ってますね」


 テレビから流れてくる予報も、杏がさっき見たことと同じことを伝えてくれている。あと三時間少し。何をしようか。


 「心愛様がいないですね」

 「護のところに行くって」

 「ほぅ」


 (何をするのかな?)


 自由。そう言ったのは杏だ。何をするのも自由。ということは、護と遊ぶのも自由。この時間は、誰が護をとってもいいわけだ。


 だが、杏は自分の部屋にいる。杏は先を見据えている。今は、自分の時間ではない。後から。ちゃんと考えた。落ち込んでばかりはいられないから。護のことを考えた。どうやったら護の隣にいることが出来るのかを考えた。


 「時間まで、杏様はどうするんですか?」

 「んー…………………………………………」


 正直なところ、昼からのことしか考えていない。護を基準にしか考えていない。それでいい。少なくともこの間は。


 「館内を動き回るわけにもいかないし……」

 「外にも出れないですしね」


 大浴場の近くに、ちょっとしたゲームセンターがあったような気がするが、杏の趣味に合うようなものではない。小学生くらいを対象としたゲームが並んでいたような。


 「佳奈のところでも行こうかな……………………」

 「お嬢様のところには……、悠樹様と薫様もいらっしゃいますね」

 「うん。もしかしたら、悠樹と薫のどっちかはいないかもしれないけど、佳奈ならいると思うんだ」

 

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