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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜四章〜悠樹√〜
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グルーヴ #5

 (どうしようかな……)


 心愛は、頭を働かせる。考える。


 ゆっくりと、気に入る浴衣を選んでいる時間はない。おそらく、全部見ることは出来ないだろう。目に付いたものをレンタルするしかない。


 何が良いだろうか。自分の好み、そして、護の好みに合うもの。特に重要なのは、後者の方だ。自分より護。優先されるべきことだ。


 どれが好きなのだろう。あまり、知らない。服装に関しては。


 (てか、護。成美先輩と一緒にいるじゃん……)


 一本取られたか。


 部屋の優劣が、露骨に表れている。ずるい。心愛はそう思う。護を分けてほしい。いつでも一緒にいられるのだから。


 「ま……、仕方ないっか…………」


 そういうことにしておく。


 こっちには、心愛にはあれがある。夏休みの約束。護や咲夜との約束が待っている。そろそろだ。料理を教えてもらう約束。忘れてはいけない。とても大切な、大事なものである。


 仕掛けるのは、そこだ。心愛はそこに焦点を当てる。この合宿は、そこに向けての前段階。


 合宿が終わっていつも通りの夏休みに戻ってしまえば、護と会える確率はぐんと落ち込んでしまう。もしかしたら、その約束の日まで会えない、なんてこともあるかもしれない。そんな最悪の事態に備えておく必要がある。悠長にはしていられない。


 「はやく選ばないと……」


 視線を護から浴衣に。どれが良いかな。


 (うーん……)


 多い。こんなにあるとは思っていなかった。せいぜい、数十着だと。そんなものではなかった。


 「…………………………あ」


 (いいかも……)


 一つ、手に取ってみる。


 「へぇ…………………………………………」


 赤と紫を混ぜた色。少し、紫が強く出ているだろうか。そして、その全面に桜模様がたくさん散りばめられている。


 (可愛い……)


 加えて、ミニの浴衣だ。心愛自身、こういう種類の浴衣は、まだ着たことがない。持っていないし、買ってもいないからだ。


 「これに……しよっ!」


 まず、一つだ。



 「うなー……………………」


 (寝れないなぁ………………)


 もちろん、眠気はある。時間も時間だ。寝たい。だが、何故か寝れない。目を瞑っていても。


 「どうしたの? ラン」

 「寝れない」

 「あはは。私もだよ」


 視線を真弓へ。寝返りをうつ。ララは寝てしまっているようだ。起きているのは、ララと真弓の二人。


 (護は起きてるのかな……)


 どうだろう。わいわいしているのだろうか。楽しんでいるのだろうか。可能性としてはある。


 「明日は、どうする?」

 「んー……」


 やっぱり、ネックになっている。青春部のメンバーにバレてはいけない、ということが。かなり、面倒である。



 成美、渚、心愛の三人は、それぞれの思いを胸に、部屋に戻ってくる。それは各々の部屋ではなく、もちろん、護と成美の部屋である。もう深夜を回ってしまっている。どうしようか。


 「この後、どうするんだ?」


 (あたしに聞くのね……)


 護の質問は心愛に飛ぶ。考えたのは心愛だから当然といえば当然。自分が決められる。成美でも渚でもない。これを考え行動に移したのは、紛れもなく心愛だ。忘れてはいけない。自分、なのだ。


 「んー…………………………」


 悩む。時間はあまりない。選ぶものは選んだ。後回し。それもあり。


 「心愛ちゃんに任せるよ。私は」

 「そだねー。決めていいよ」


 言われなくてもそのつもりなのだ。心愛が決めること。


 「明日……にしましょうか」


 仕方がない。時間がないのは心愛のミス。次でカバー。明日に回す。そこで結果を。護に。


 「分かったよ。それじゃぁ、私は部屋に戻るね」


 (あ、そっか……)


 失念していた。ここで一回終わりにするということは、この部屋からの退出、自分の部屋に戻らないといけない。うっかり。うっかり。


 「そう、ですね。戻らないと……」


 戻ってしまえは、また、成美は護と二人きりになれる。羨ましい。本当にそう思う。そこが自分だったら。何回も考えてしまう。


 同級生、クラスメイトという間柄が、どこまでの力を持つか。明らかに、それは薄い。


 成美と比べるのであれば、同じクラスなのだから優位に立てる。だが、それは、先輩と比べた時だけだ。


 対象はもう一つ。もちろん薫だ。何度もいうが、心愛は、薫が一番厄介だと思っている。そこに勝たないといけないと思っている。


 薫だって、その地位に、その立ち位置に甘んじてはいないと思う。そこまで悠長に構えてはいないと思う。だが、幼馴染みというそれは、変えられない事実であり、二人の関係性を決定づけるものだ。付き合いの長さでは、到底叶わない。


 「戻ろう? 心愛ちゃん」

 「あ、はい」


 座り込んだままだった。渚の手を借りて身体を起こす。あまり力が入らない。まだこの部屋にいたい。


 「じゃぁね、また明日」

 「うん」


 成美の言葉に反応するのは渚。心愛は口を開かない。護もだ。


 (護…………………………)



 「何してるんだろう……………………」


 布団にもぐりながら、渚の帰りを待つ。もうすぐ帰ってくるだろう。何をしていたのか聞いてみたい。渚の言葉に甘えて先に寝てしまおうかとも思ったが、気になってしまって、眠気がなかなかやってこない。


 お姉ちゃんの部屋に行ってくる、葵が知っているのはそれだけ。お姉ちゃんの部屋。護の部屋でもある。


 少しは考えた。葵もそこに混ぜてもらおうかと。でも、やめた。邪魔になる。そう思ったからだ。


 (寝ないと……)


 十二時を回ってしまっている。いつもなら寝ている時間だ。こういう時だからこそ夜更かし、というわけにもいかない。リズムを整えないと。

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