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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜四章〜悠樹√〜
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グルーヴ #3

 



 (あ、護君帰ってきた……)


 心愛と一緒に。護が部屋にいなかったからどこに行っているのかと気になっていたが、手に持っているものを見ると、理由が分かった。


 (それにしても……)


 少し遅かっただろうか。飲み物を買いに行く。たったそれだけのことなのに。どれくらいいなかったのかは分からないが、渚が成美に浴衣のことを伝えてから十分は経っている。


 (んー……)


 ここは当然、別の理由があったと考えるのがいい。知りたいとは思わない。


 だって、それは、お姉ちゃん、成美にすら伝えられていないことだ。だから、渚にはどうでもいいこと。


 「おそいぞー。護」


 心愛から引き離すように、成美が護を部屋の中へ引きずり込む。


 「で、心愛ちゃん」


 取り残された雰囲気のある心愛に声を。


 「どうだったの?」

 「問題なかったです。返すのも、チェックアウトまででいいらしいので」

 「へ? そんなに長くていいんだ」


 渚と同じ疑問を成美も抱いている。


 「何の話、ですか?」


 (心愛ちゃん、言ってないんだ)


 「浴衣だよ、浴衣」

 「浴衣…………?」




 浴衣? 心愛がさっき言わなかったことはこれだろうか。


 夏だし、旅行だし、浴衣、という単語は簡単に思い浮かべることはできる。が、男はあんまり着ないものだろうし、メインは女の子だ。


 「浴衣、持ってきてるんですか?」

 「いや、持ってきてないよ。借りようと思ってね」

 「心愛ちゃんに頼んでたんだ」


 あぁ、そういうことだったのか。


 浴衣。さっきまで行われていた花火大会。そこでも、何人もの女の子が浴衣を身に付けていた。青春部は誰も着てはいなかった。だから、なのだろう。着てみたい、そう思ったわけだ。


 俺個人的にも、見てみたいと思う。夏休みだし、この後見る機会はたくさんあるかもしれないが。折角の旅行なのだから、そこに合わせるのは悪いことではない。


 「行きましょうか」

 「そだね」

 「この階の、下です」

 「じゃぁ、俺は待ってますね」


 そんなに長くはないだろう。時間のこともあるだろうし、明日もまだある。


 「んー? 護は何をいってるのかなー」

 「あんたも来るのよ。護」

 「そうだよ? 護君」


 おや? 俺も?


 「何のためにここで待ち合わせしたと思ってるの」


 心愛からツッコミをくらう。考えてみたらそれもそうだ。俺が混ざらないであれば、わざわざこの部屋で集まる必要はなかった。その、浴衣が借りれる部屋に直接行けばいいのだから。


 「あっちで試着もできるみたいです」

 「いちいち戻ってくるの面倒だもんねぇ」


 気に入ったやつを部屋に持ってくる。


 どれくらいの種類の浴衣があるのだろう。試着が出来るなど、口ぶりからしてみれば、ある程度揃っているんだと思う。


 「それじゃ、いこっか」


 手を叩き、成美が声を出す。先導をつとめるのは成美だ。





 「戻りましたーっ!」


 元気よく、だけど、声は小さめに。もう夜も遅い。旅館の、最低限のマナーは守らないと。


 「おかえり」

 「おかえりなさい。ララ」


 二人が出迎えてくれる。寝ているかな、なんてララは少し思っていたけれど。


 真弓を左側、ランを右側に見、ララは腰をおろす。


 「クーラー、つけよっか?」

 「んー…………、大丈夫」


 汗をかいていないわけではない。入れることならお風呂にも入りたいが、そこまで暑いというわけでもない。


 それに、二人はこの部屋にいたのだから暑いとは思ってないだろう。ララがちょっと我慢すればいい話だ。


 「外、いってたの? ララ」

 「海、見てきた」

 「やっぱりね」

 「明日、海入りたいですね」


 ランの希望が真弓に伝わる。


 「そだねー」


 海まで行きはしても、まだ入っていない。ララとランには新鮮さがある。こっちに来てからは、当然まだ入ってないし、フランスにいた時もあまり行くことはなかった。


 「真弓せんぱーい」

 「んー、どーしたのー?」

 「ランー」

 「な、なにかな?」


 (弱気になっちゃダメだなぁ……)


 ララの印象は、明るく元気。活発な女の子。間違いない。だからといって、常にそれを維持できるわけではない。悩みがない、なんてこともない。


 弱気になってしまう時だってたまにある。その度に、こうして自分自身を鼓舞しているわけではあるが。


 「やっぱ、なんでもなーい」


 (頑張らないと……)


 今頃、護は何をしているのだろう。寝る準備をしているのだろうか。成美とのおしゃべりを楽しんでいるのだろうか。


 (うらやましい……)


 こういう形な以上、時間には限りがある。だが、部屋が一緒であれば、この合宿の期間、いようと思えば、いくらでも護の隣にいることが出来るわけだ。


 合宿が終わったあと、二学期をむかえてから、それは、大きな差となって、ララの目の前に現れるだろう。


 のんびりするつもりはない。その差をつめないといけない。そのための合宿でもある。開かれてばかりでは意味がない縮めるために、わざわざ護に時間を作ってもらった。


 あの時間が何になるのか。何に繋がることになるのか。ララ本人もよく分からない。


 (だって……)


 お話しただけ。それだけしかしていない。それでいい、と決めたのもララだけれども。


 (つながればいいな……)



 (うんうん)


 なんでもない、と、ララは言った。


 それは嘘だ。嘘でなければ、あんな弱々しい声で真弓のことを呼んだりはしない。


 先輩だ。頼られる存在だ。二人は、真弓についてきてくれている。とてもありがたいことだ。


 応援したい。ずっと、思ってることだ。佳奈然り、ララ然り。真弓が重きを置いているのは、その二人だ。


 護の意識をそこに向けれるように。真弓も少しは頑張るべきであろう。間に立ち、行動を起こさなければならない。


 今は、ララの番だ。


 以前、佳奈の時は、成功したと真弓は思っている。お膳立て。佳奈はあれから明るくなった。女の子らしくなった。何年も見てきた真弓には分かる。


 (さぁ……)


 ララはどうなるだろうか。


 肩身は狭い。バレないように参戦しているのだから。少々、不自由ではある。


 ただ、それは、真弓が選んだことだ。真弓が選び、ララとランに提案した。二人には苦労をかけていると思う。発案したのは真弓だから、責任は真弓にある。


 「明日はランの番だねー」

 「…………う、うん…………………………」


 三番目。望んだのはラン。


 「後で……、連絡しておきます」


 明日は三日目。折り返し。護達は何をするのだろう。鉢合わないように。その上で、楽しむ。楽しくなかったら意味がない。もちろん、それだかではダメなのだけれど。



 (なにをすればいいのかな……)


 明日になればランに順番がやってくる。最後である。


 護を占領できるわけではない。そこまでする力もない。そして、する必要があるとは思わない。


 何故なら、護に恋愛感情を抱いているわけではないからだ。ララみたいに、他のメンバーみたいに。ないわけではない。一応。重要なこと。


 (普通がいい)


 そう。友達として接していきたい。それが、自分の立ち位置。自分が自分でいれる最大の場所だと、ランは考える。


 「ねむくなってきた」


 欠伸をしながら声を出すララ。やり終えた感がある。


 ララは、護と何をしていたのだろう。何をして達成感を得たのだろう。


 ララと護が結ばれることがあれば、ランだって嬉しい。仕掛けてはいるのだろう。そうしなければ護を手に入れることは出来ない。


 (聞いて、みようかな……)


 ちょっと怖いけど。聞いてみてもいいかもしれない。護は誰が好きなのか。


 (でも、どうなんだろう……)


 教えてくれるだろうか。そのような話を護とする機会がなかったから分からない。知りたくなったのも、今だ。


 誰が好きなのか。それは、誰も知らない事実。だから、頑張れる。応援もできる。


 (やめておこう……)




 「んんんんっっっ!! 終わったぁぁぁぁぁ」


 左右を見て誰もいないのを確認してから、花蓮は大きくノビをする。


 心愛を見送ってしばらく。本日の、花蓮の仕事が終わりをむかえた。


 「どうしようかな」


 十二時が近付いてきている。早く寝ないといけないことは分かっている。明日ももちろん仕事を手伝わないといけないのだから、疲れを引きずってはいけない。明日に持ち込んではいけない。


 「でも、気になっちゃうよねー」


 さっきの一件。不知火咲夜。その名前が引っかかる。すっきりしたい。この感覚。


 直接会えば分かるだろうか。名前の情報しかない今。モヤモヤを解消するための一番簡単な方法は、それしかないように思える。


 「どうしようかな」


 まだ時間はある。顧客情報を見る限り、明後日までいる。焦る必要はない。


 「ま、いっか」


 切り替え。切り替え。


 後回し。後回し。


 「花蓮、もうあがっていいわよ?」


 ひょっこりと顔だけをこちらに出して、母が声をかけてくれる。


 「うん。分かってるよ。ありがとう」

 「明日も頼むわね」

 「はいはい。頑張りますよ」


 別にバイトではないし、実家の手伝いだから、そこにお金が発生したりはしない。どうせなら貰いたいが、あくまで、家族としての。他の従業員とはそこが違う。


 (まぁ、ちょっとは休みたいけどねー……)


 夏休みを利用してこっちに帰ってきている。半分は手伝うために帰ってきたようなものだが、さすがにこれだけで潰したくはない。こっちに残っている友達とも遊びたい。


 「明日からも頑張りますかぁ」


 右手を上に突き出し、もう一度ノビをする。


 よし。頑張ろう。



 「ここ、かな……」


 先導してくれていた成美の横、渚が中を覗きつつ。


 「みたいだね」


 成美もそれに合わせる。


 (あー、時間……)


 腕時計に目をやると十一時を回っており、時計の長針が、そろそろ六を刺そうというところだった。


 あまり時間はない。ゆっくりはしていられないだろう。


 「こんなにあるのか」


 護の隣を確保し、心愛は二人の後についていく。


 「心愛ちゃん、心愛ちゃん」

 「はい? 」


 何かに気付いたか。パッとこちらに振り返る渚。


 「時間とか……どうする? あんまり遅くなったらダメだし………………」

 「だねー。パパッと見て、続きは明日にでもする? チェックアウトまで借りれるわけだし」

 「あ……、そうですね。そうしましょうか」


 また明日、時間を取ればいいだけの話だ。この三人で、となるかどうかは分からないが。


 (んー……)


 出来ることなら、少ない方がいい。その方が、護にインパクトを与えることができる。護の近くにいることが出来る。優位に立つことができる。


 何のためにここにいるのかを忘れてはいけない。


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