表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第二編〜四章〜悠樹√〜
271/384

れっつ、ごー #4

  「ふふふふふー」


 準備をすすめる。心愛も咲夜も今はいない。咲夜が心愛を連れて、部屋から出ていったからだ。都合がいいといえば都合が良い。別に居ても問題はないのだが。


  「バレたりしたら楽しみがなくなってしまうからねー」


 楽しみはとっておかないと。


  「護はなにしてるかな」


 忘れない。護を想うことを。


 シフトしていこう。護を手に入れるための行動を優先する。


 これまでも、そういう風にしてきてはいる。もっと頑張っていこう、そういうことである。のんびりとはしていられない。護のことを常に考える。


 今もそうだ。建前は、皆で楽しむため。当然、本音は違う。護を手に入れるため。それが本音であり、目的であり、必ず達成していかなければならないことだ。


  「さてさて……」


 もうすぐだ。もうすぐ時間だ。


 どこまでやれるか。


  (いや、違うわね)


 杏は否定する。やらなくちゃいけない。立ち止まってはいられない。


  「時間がないんだよねー」


 合宿だって、何もしなければすぐに終わってしまう。きちんと、やるべきことをやらないと。


 時間がない。迷ってはいられない。


 これまで十分迷ってきた。もう必要ないだろう。


 どうなるかは分からない。護がどう答えるのか。杏の気持ちに応えてくれるのか。


 あの時の答えを。聞いておきたい。


 そろそろ終わりにしよう。そして、その先へ。



  「心愛様」


 心愛をロビーまで連れだした咲夜。聞きたいことがあったから。別に、話す場所はどこでもよかったが。


  「は、はい。なんですか………………?」


 怯えている。急に連れてきたから。何も言わずに連れて来てしまったから。


 ロビーの、入り口に近いところのソファに腰をおろす。


  「聞きたいことがあるんです」

  「あたしに、ですか……?」

  「はい、そうですよ」


 心愛だけ、というわけではない。皆に聞きたいこと。初めに心愛。それだけのこと。


  「心愛様が、護様を好きになったのはいつですか?」


 直球。


  「………………え、…………………………あ、いつ………………え?」

  「いつから好きなのですか?」


 単純な質問。


  「ど、どうして…………そんなことを、聞くんですか?」


 心愛の目は、咲夜を捉えてはいない。


  「知りたいからです」


 何があって護に好意を寄せることになったのか。その理由はなんなのか。知ったところでどうしようもないが、本当に気になるのだから仕方がない。


  「四月から、です」

  「幼馴染、というわけではないのですね」

  「そ、そうですね……。羨ましいです。純粋にそういう間柄は」

  「そうですね。分かります」


 昔から付き合いがある。それは、恋に対して有利に働くものであろう。咲夜にはそういった、異性の幼馴染がいなかったから分からないが、薫を見ているとそう思う。


  「きっかけは?」

  「もういいですか………………?」


 心愛はまだ、こちらを見てはくれない。


 そして、心愛は口を閉じた。もう一度、おなじ質問はしない。


 答えたくはないのだろう。


 (そう、ですよね)


 聞いたところで、咲夜はそれに対して何かができるわけではない。経験もないから助言ができるわけでもない。


 ただ、支えることは出来る。上手く、間を取り持つことが出来るかもしれない。


 本来なら、これは、佳奈にやることであろう。佳奈の執事だから。佳奈の手助けをするのが、咲夜の役割だろう。しかし、今の咲夜はそれに反している。佳奈のことはもう知っているだけ、といえばそうなのだが。


 咲夜は思う。自分は我が儘である、と。無理矢理問うているのだから。


 でも、始まりは重要だと思うのだ。


 その当時のことが思い出せるから。



 「……………………」


 咲夜が何も聞いてこない。


 質問には答えてほしいのだろう。そして、まだ、心愛に聞きたいことはたくさんあるのだろう。


 「……」


 咲夜は言った。いつから。護を好きになったのはいつなのか。


 「きっかけは…………」


 四月。始まりの月。何も、最初から好きだったわけではない。


 声をかけたのはこちらから。体力テストの時だった。毎年ある、心愛的には少し楽しみにしているものだ。


 自信があるから。体力、スポーツ、運動。普通の男子に負ける気はしない。心愛は自負している。ほとんでの科目でトップだったから。


 (もう、懐かしい、なんて思えるんだ……)


 そんな感情が生まれた。全然月日は流れていないのに。もう一年か、それくらいの期間は経ってしまっているような感覚がある。


 五十メートルを一緒に走った。それが護との始まり。タイムで負けたことが始まり。


 護のびっくりした顔が思い出される。


 負けた。コンマ何秒かの差ではあるが、負けた。護には「はやすぎだ」と言われた。


 (悔しかったなぁ…………)


 それからだ。


 喋る、といっても、休み時間になったら二人で他愛もない話をする、なんてことはあまりなかった。


 一言、二言。機会は多くはなかった。だって、薫がいたから。護の隣には、いつも薫がいた。昔から護のことを知っている、幼馴染の薫がいた。加えて、薫がいない時は、葵がいた。クラス委員長。護もそうだ。そのつながり。


 そして、心愛は。


 少し話しただけ。


 今は全くそんなことはないのだが、その頃は、間にはいっていくことが出来なかった。一歩引いた場所から見ていた。混ざる勇気がなかったから。薫や葵との一対一や、三人で話したりするのは大丈夫だった。でもそこに護がいたら、心愛は何も出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ